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ふ、と目を開けると辺りは暗くて…
やっぱり気を失ったんだな…と思った。
窓を閉め切っているのに寒い…
「………。」
先生はご飯を食べただろうか…
そんな事を思いながらリビングに出る。
真っ暗で…秒針の音だけが響いている。
先生の姿はどこにも無い…
不安に駆られ、先生の部屋の前に立つ。
「………。」
今更何を言おうと思うのか…
会ってどうするのか…
ここに居る事を確認して何になるのか…
心臓の音が全身に響く…外にまで聞こえてるかもしれない。
自分の手を胸の前でギュッと握り締め、そっとドアノブに触れる。
居なかったらどうしよう…
服も…何もかも無かったら…
色んな事を思い浮かべながら、音を立てないように開ける…
「………。」
ベットには先生がちゃんと居て…呼吸もしている。
寝ている…
ここに居る…
安堵した途端、身体は正直で…
先生のベットに潜り込んだ。
先生の匂いがする…
優しくて…少し煙草の匂いがする。
「………せんせ。」
小さく呼び、頬を先生の胸に押しつける。
すると…先生の腕が俺を包み込んだ…
『眠れないか…?』
ちょっと眠そうな…そんな優しい声が上から聞こえる…
無言で首を横に振って、抱き着いた。
背中をリズム良く叩く…大きな手…
「せんせ…ごめんね…」
『ん?』
「俺…ちゃんと聞かずに……」
『ん…』
先生の声が小さくなった…
どうやらもう夢の中へ行ってしまった様だ。
先生…ちゃんと自分でどうにかするよ…
明日学校に着いたら、生徒会室に行ってみよう。
「おはよ、日下君。」
〔おはよー…って、どした?そんなに急いで…〕
「ちょっとね。」
軽く会話を交わし、俺は足早に生徒会室へ向かった。
ノックをしようと扉に手を翳した時…中から会話が聞こえた。
《ちゃんと言いつけを守ってくれたんだね…桐生。》
〈勿論…だからご褒美…〉
《そうだね…頑張ってくれたお礼………と、言いたい所だけれど、どうやらネズミが居るみたいだ。》
声が近くなり、その場を離れようとしたが遅く…
扉が開き、俺はその中に引きずり込まれた。
〈勇間君…〉
「………。」
《盗み聴きなんて…随分な趣味ですね。》
放るようにして入れられたため、打ち付けられた尻が痛い…
擦りながら顔を上げると、そこには棗先生が居た…
メガネの奥にある暗い瞳は弧を描いている…
相変わらず不気味に笑う人だ…最近見かけていなかったこの先生…確か科学の…
《聞いてます?》
「あ、すみません…」
〈棗…〉
隣で無表情のまま居るのは…昨日の青年…
まるで別人だと思う程、雰囲気が違う。
《倉沢勇間……可愛い可愛い……あの人の勇間……》
ブツブツと呟きながら前髪をクシャリと掴む棗先生…
あの人…?
もしかして…
《憎い…羨ましい妬ましい……あの人からの愛を…受けられる可愛い勇間…》
〈棗…落ち着いて。〉
《………あぁ、すまない。ちょっと取り乱してしまったね。》
ズレたメガネを直しながらパッと表情を変え、にこやかに接し始める…
女よりも細く、肩付近まである長い髪…
色白な肌に浮かぶ、どんよりとした目の下の隈…
「棗先生……まさか、真羅先生を?」
《ふっ…ふふふふっ……あぁ、そうですね…貴方よりも、もっと深い愛を持って居ますよ?それを聞いてどうします?》
「どうっ、て…」
《貴方に何が出来るんです?生徒と教師で…こんな事して…》
棗先生は手にある写真を翳すと、にこりとより一層微笑んだ…
そこには…俺と先生が屋上でキスをした。あの日の出来事が写っていた。
身体が急に熱くなり、それを取り返そうと立ち上がったが…
昨日の青年に抑えられた。
〈あまり感情的にならない方が良い…棗が嫌う…〉
「…っ…」
〈それに…棗は容赦が無いから……無闇矢鱈と発言するのも…〉
耳元で囁く彼の言葉に、大人しく従う事にした。
先程の乱れ様を目の当たりにしたため…安易に想像が出来る。
下手に発言もしない方が良いだろう…
《これが学校中に触れ回ったら……大変な事になるのはご存知ですよね?》
「っ……はい。」
《あの人の居場所…信頼…全てを台無しにしたくは無いでしょう?》
「…っ…」
《あぁ…別に貴方からあの人を取ろうと思ってませんので、そこはご安心下さい。》
にこりと不気味に微笑んだ。
安心しろ…って…言われても…
《……私は残念ながら貴方が嫌いです。》
「…っ!」
声のトーンが低くなり、先程の表情は消え…無表情で見つめられる。
暗い瞳が冷たく突き刺さる。
《貴方が笑えば、あの人は喜ぶ…なんて妬ましい……》
「………。」
《傷付けたら傷付ける分だけ…哀しむ……大変良いご関係ですね。》
褒めている様で全く褒めていない。
侮蔑の瞳だけがずっと注がれている…気味が悪い。
《さて、本題に戻しましょうか。》
「本題…?」
《ええ……先日うちの桐生が貴方にした事について。》
「っ!」
《…あの人には、話せないでしょう?》
「そ、れは…」
《私が話して関係を乱しても良いのですが…それでは面白味が欠けてしまいます。なので、一つ提案が。》
「提案?俺はもうあんな事二度と」
《いえ、それは無理な事ですね。》
「……は?」
《この写真と、貴方達の関係を口外しない代わりに…貴方にはこの桐生との相手をして下さい。》
にこりと微笑み、昨日の青年に触れる。
なんだ…これは…嫌な流れが…
「相手…って何ですか…」
《Sexですよ、勿論。》
「な…っ」
《それが嫌なら…あの人にはここから去ってもらいます。》
「………。」
《それは貴方も嫌でしょう?》
押し黙る俺を見つめ、棗先生は大きくため息を吐いた。
そして髪を掴み、無理矢理目を合わせるよう頭を持ち上げた。
《じゃあ、言い方を変えますね。》
「いっ……っ…」
《先程の言葉を訂正します。あの人が私を見るように、貴方に協力してもらいたい。それが叶わぬのなら…関係を壊します。》
「言ってる事が可笑しい…っ…」
《………。》
「そんな事をしても、先生は貴方に向かない。」
《へぇ…》
「先生はもう、俺のものです。」
《………そうですか、残念です。》
掴んでいた髪を離し、立ち上がる。
《桐生…》
〈……。〉
《私のお願い…聞いてくれますか?》
〈うん、勿論…〉
《ありがとう…忠実な人は嫌いじゃないです。》
柔らかく微笑んだと思った矢先、自分の視界が反転した。
目の前には青年の顔…
《私、手段は選ばない主義でしてね…貴方が拒否しようが何だろうが、最初から関係無かったんです。》
「狡い…」
《狡くたって良いじゃないですか…貴方だって、それなりに狡く生きてきたんでしょう?周りの手を貸りる癖に、肝心な時に逃げ出して…でも周りは優しい人ばかり、誰も貴方を責める事などしなかったでしょうね。》
「………。」
《虫唾が走りますよ…砂糖を食べてるみたいに甘い。》
「俺の事はどうしたって良いです…でも、俺以外の皆を悪く言うのは違うんじゃないですか。」
《あぁ…怒らせてしまいましたか、すみません。》
嗚呼…腹が立つ。
何でこんなのが先生になれるんだ。
人の気持ちを知らない…こんなのが先生だと思いたくない。
《さて、そろそろ予鈴が鳴る時間ですね…》
「………。」
《桐生、離してあげなさい。》
〈うん。〉
俺の上から退いた彼は、再び棗先生の横に立った。
この二人の関係はどうなっているんだろう…
《では…この先が良い結果になる事を祈ってます。》
「………。」
俺を置き去りに、二人は教室から出て行った。
力が抜けた俺は、そのまま寝転がったまま天井を仰ぐ…
平和な日々を願っていたのに…また忙しくなりそうだな…なんて思いながら。
「はぁ……」
良い結果って言われても…俺が何をしても変わらないのに。
それにあの桐生って人、明らかに棗先生の事…
その気持ちを利用してるだなんて…なんて酷い。
俺がすべき事は何だろうか。
先生を守るためにあの条件を飲まなければならないのか…
それとも、先生に全てを話して…
嗚呼…駄目だ…
―《狡くたって良いじゃないですか…貴方だって、それなりに狡く生きてきたんでしょう?周りの手を貸りる癖に、肝心な時に逃げ出して…でも周りは優しい人ばかり、誰も貴方を責める事などしなかったでしょうね。》―
棗先生の声が頭に響く…
その通りだと思う、現にこうして頭を働かせても何も浮かんで来ない。
いつも日下君に話して、助言を貰って………
叶先生が来て…そして、先生が来る。
結局俺は何もせず、周りを危険に晒して終わる。
なんて狡い人間なんだろうか…
「はぁ………」
本鈴が鳴っている…
行かなくちゃ…でも今日の一限は先生の授業だ…
顔を見てしまったらきっと…俺は助けを求める様な目をしてしまうんだろうか。
誰の力も助けも借りず、どうやったら良いのだろう…
どうやったら…みんなを、先生を守れるだろう…
一人で出来るだろうか。
一人で上手く笑えるだろうか。
一人で…
嗚呼、もう俺は一人になれないんだ…
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