アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
真羅 ~side~
-
目の前のパソコンの文字列と睨み合い、何時間が過ぎただろうか…
睨んでは今朝の勇間を思い出し、またパソコンを睨む。
ずっその繰り返し…
『はぁ……』
溜息を吐くのと同時に、扉がノックされた。
すりガラスに見えるシルエットは、叶でも日下君、勇間でも無かった。
他の生徒かと思い、どうぞーと声を上げ入室を許可した。
『………。』
入ってきたのは教師…
俺はこの人物を知っている、叶とは別で幼馴染だ。
《すみません、お忙しい中。》
『棗…先生…』
《休憩、しません?》
『お、おぉ…』
珍しい人から珍しい誘いだ。
タバコを持ち、席を立つ…
屋上までの道のりは、何一つ会話は無く…少し気不味い。
『うおっ…さむ…』
《マフラー使います?》
『いや、大丈夫……と、いうか珍しいな…』
《たまには、と思いましてね。》
お互いタバコに火をつけ、咥える。
2つ分の煙が空へと登り、消えていく…
甘い匂いが鼻を擽る。
何だと思いつつ、嗚呼…棗のタバコだ、と納得する。
『中々校内で見かけなかったから、居ないと思ってた。』
《それはすみません、準備室に篭ってたもので…ふふっ》
『あまり無理するなよ?お前身体弱いんだから。』
《…善処します。》
優しく微笑む横顔を見て、あまり変わってないな…と再確認した。
《最近、噂で真羅先生は倉沢君と仲が良いんだとか…》
『ん?まぁな…何か、放っておけねぇんだ。』
《ふふっ……貴方らしいです。私の時もそうでしたから…》
『…まぁな。』
高校時代…棗がイジメられている所を、何度か止めた事がある。
そこからだ、棗が俺にくっつくようになったのは…
笑う様になったが、あの頃は何しても顔色一つ変えなかった。
だが……助けてしまった日から、俺に依存する様になった。
俺が誰かと仲良くすれば、棗はそいつらに危害を加えた…
それが嫌で…離れたんだ。
《でも…貴方には私が居ればそれで充分なのでは?》
ほら来た…
思わず顔を顰めた。
いつもこう言っては、俺の行動を否定する…
『棗…お前は俺だけじゃなくても良いんだ、もう少し視野を広げて見ろよ。』
《…嫌です。貴方が私を救ってくれたあの日から…私は…》
そこまで声を荒げた途端、口を噤んだ。
棗のタバコの灰が…落ちそうだ…
『棗、お前はもうあの頃とは違うだろ?俺と居なくても笑える…』
《………。》
『こうして、教師にもなっている…一人で出来るようになったんだ。』
《…です…》
『ん?』
《嫌です…》
ポロポロと涙を流し始めた棗…
俺は驚きながら、タバコの火を消し背中を擦る。
『そ、そんなに泣く事じゃ…』
《私には…貴方しか居ないんですっ……こうして、笑い合ったりするのも…っ…貴方しかっ…》
『…っ…』
縋るように俺の服を掴み、声を押し殺しながら泣く棗…
嗚呼…心配だと思いたいのに、嫌な予感しかしない。
ここ最近勇間が変なのも、棗が関わっているんじゃ…?
『棗、お前最近勇間と接触したりしてねぇよな?』
《………。》
すると、今までの涙が嘘だったかのようにピタリと止まった。
『お前…っ…』
《私は貴方しか見てないんですよ……ずっと…》
『勇間には何もするな。』
《何もしてないですよ、する訳無いじゃないですか…私と同じ境遇の方なんですから。》
『………。』
信用が出来ない…
じゃあ誰が勇間にあんな事を?
タバコをもう一本取り出し、吸い始める。
《落ち着いて下さいよ、私はもう何もしないので。》
『そうかよ…』
《顔、怖いですよ?信用ありません?私。》
『そりゃそうだろ…お前にどんだけ……いや、何でもない。』
《……じゃあ、私はこれで。また休憩に付き合わせて下さいね。》
『そうだな…。』
にこりと微笑み、そのまま去って行った棗。
胸のあたりが気持ち悪い…嗚呼、頼むから勇間には何もしないでくれ…
フェンスに寄りかかり、夕日を見つめる。
ふ、と下に視線を落とすと…勇間が慌てながら走っていた…
そんなに慌てて、転けたらどうするんだ…と心配になりながら見ていると…遅れてゆっくりと歩く、今朝の生徒が居た。
『追いかけられてる…?』
一難去ってまた一難どころじゃない…
やっと勇間に寄り付く虫を消せたと思ったのに。
まだ出てきたのか…人間用の除草剤欲しいな…なんて思う。
[ん…ここに居たのか…くっそ寒ぃ…]
『叶…』
[なんつー顔してんだよ…人殺してきたんか。]
『あぁ…ごめん、ちょっと考え事。』
[考え事ねぇ…]
『お前、タバコ駄目だろ…消すから待て。』
[別に構やしねぇよ。]
ちらりと元の場所を見れば、もう居なかった。
遅くなりそうだが、もしもの事を考えたら…
早く終わらせて帰らないとな…
[…すれ違いで棗先生見たけど…あれ、お前が前に言ってた?]
『あー……うん、そう…。』
[………。]
『自分で手を貸しといて、嫌になって離れた…酷いやつだよな俺…』
[人間皆そんなもんだろ。お前だけじゃねぇよ…]
溜息を吐く俺を見ながら、優しく微笑んだ叶…
『勇間が誰かにヤられた…』
[…は?]
『身体に幾つも痣があって、手首も縛られてたみたいで…』
[何だそれ……]
『目星は…だいたい……棗が関わってるのかもしれない。』
[倉沢に聞いても答えねぇか…]
『あぁ……今はまだ言えねぇんだと。』
今朝の事を思い出す。
勇間と一緒に居たあの生徒…怪しいな…
さっきも追いかける様に歩いていた。
『………。』
[だから、顔怖ぇって。]
勇間が俺に話さない以上、何の手掛かりも無い。
下手に動けば…何されるのかも分からない。
きっと、自分一人で解決しようと頑張っている…その気持ちはとても嬉しい…
けれど…身体を犠牲にする事は無いだろ。
自分に対しての価値が低い…そこだけは未だ尚、根強く勇間の思考にこびりついている。
『はぁ…』
[落ち着かねぇなあー]
『ホントにな……早く勇間との時間が欲しい…あー。』
[惚気ウザ。]
『お前らは良いよなー。』
[…まぁ、付き合ってねぇからな。]
『は!?』
[何だよその顔…お前みたいに未成年に手を出すわけねぇだろ。]
『ゔっ……いや、でも好きなんだろ?』
[その気持ちだけで乗り越えられる訳じゃねぇんだよ。アイツにもしものことがあった時とか…そう言うの考えたらノリだけで決められなくなったんだ。]
『……お前めっちゃ日下君好きじゃん…。』
[うるせぇな!]
照れ臭そうに喚く叶…
なんだか俺は嬉しくなってきた…あの日、告白されてから何ともないような態度で接して来て居たから。
苦しませたんじゃないか、とか…色々考えてしまっていた…
けれど…こうしてまた笑い合えている。
しかも、その相手を想ってくれる人も出来た…
素直になれない叶を、良く分かってくれる人が。
[何笑ってんだよ…気持ち悪ぃ…]
『失礼だな。』
[…目星が付いてる奴って、どいつだ?]
『んー……名前までは…背が高くて賢そうな奴だったかな。』
[どいつだよ…多すぎる。]
『あー、ほら、あのー…無口でイケメンだの何だの噂されてる…あいつ…えーっと…』
[桐生か。]
『多分それ……まぁ、まだ分かんないけどな。勇間本人が教えてくれさえすれば、さっと片付くんだけど…何か事情があって話せねぇみたいでよ。』
[ふぅん…難儀だな。]
『そーね……』
1つ、また溜息を吐く…
ここ最近ずっと溜息吐いてばっかりだ。
幸せが逃げるな…とかなんとか思いながら、また吐いた。
そんな俺を叶はただ心配そうに見つめる…
『大丈夫だよ…』
[何も言ってねぇだろ…]
『顔に書いてある。』
[嘘つけ。]
『ははっ……ま、勇間が一人で何とかしたいなら…俺はそれの後押しをするだけだ。』
[苛ついてる癖にか?]
『それは否定出来ないなぁ…』
[独り立ちさせたくないのか?]
『……最初は、そのつもりだった。でも…一緒にいる内に、俺が居なくても大丈夫だって言われるのが怖くなってきて…』
[………。]
『独り立ちさせる為にしてたのに…いつの間にか自分の手に閉じ込めたくなった。』
俯いた俺の肩にそっと触れた叶は、にこやかだった。
つられて俺も微笑む。
[独占欲丸出しかよ。]
『そうらしい…』
[ま、お前らしくて良いんじゃねぇの。ただ、適度にな…]
『あぁ…』
大丈夫…
勇間はもう強い。
俺なんかが居なくても…一人で…
それをまだ俺はさせたくない。
ずっと俺を頼って、ずっと俺の隣りに居てほしい…
棗と逆じゃないか。
寄り付く虫を排除して、根絶やしにして…
これは独占欲だなんて甘いものじゃない。
俺は勇間に依存しているんだ…
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
67 / 246