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文化祭の準備が終わりを迎える頃、俺は傷と戦う毎日だ…
あと…
〔だーかーらー!勇間は無理すんなってば!〕
「いや…暗幕運んでるだけなんだけど…」
〈俺が持つ…〉
「桐生君は別のクラスでしょ…」
『現場監督にしなさい。』
「先生も何で居るんですか…現場監督は実行委員がやります…」
この三人が過保護すぎる…
確かに痛むけれど、そんなに深くないし寧ろ余裕だ。
それなのに日下君は軽いものを持ってても、代わりに持つと言って聞かないし…
桐生君はそもそも別のクラスなのにも関わらず、毎回やってきては日下君と一緒になって荷物を奪っていく。
真羅先生に関しては…過保護により拍車を掛けた過保護になった。
溜息を吐くのもこれで何回目なんだろう…
周りの生徒達も、なぜか気を遣って仕事を振り分けてくれない…
これじゃあ足を引っ張ってるようなものじゃないか…
「三人共いい加減にして……」
《皆さん勢揃いで何してるんです?》
「棗先生…」
《…あぁ、なる程。》
察した棗先生は、眉を顰めながら笑いを耐えている。
元はといえば貴方のせい何ですけど…
「棗先生からも言ってください…この三人、俺に何もさせてくれないんですから。」
《と、言われましてもねぇ…》
チラリと三人に目をやると、自分の身体を抱いてわざとらしく身震いした。
《三人の内、二人に恨みを買ってるので…》
「………。」
絶対この状況楽しんでるだろ…
呆れながらその場から立ち去ろうとすれば、当たり前の顔をして三人も付いてくる。
「〜〜〜っ…三人共邪魔!!桐生君は自分のクラスに帰って!先生は仕事しろ!日下君も俺にばっか付いてないで他の仕事あるから!!」
『………。』
〈………。〉
〔………。〕
驚いた顔のまま固まった三人。
久しぶりに大声を上げた気がする…あぁ、どっと疲れた。
項垂れる俺と、何だか嬉しそうな三人。
駄目だ…伝わってる気がしない…
『じゃ、仕事戻りまーす。』
〈迷惑だったよね…ごめんね…〉
〔出来る限りはやるけど…無理しないでよ?〕
「……う、うん。」
急に聞き分けが良くなった…
それぞれが俺の元から離れて行った。
やっと一人になれた…膨大な溜息を吐き、壁に凭れる。
《三人共、本当に倉沢君が心配なんですね。》
「まぁ…それは有り難いんですけど…」
《怪我をさせた本人が言うのも、ですが…無理はなさらず程々になさって下さい。》
「…はい。」
《貴方のクラスの出し物は…お化け屋敷ですか?》
「いえ、ドラキュラカフェ?…みたいな、なんかお化けとカフェを混ぜた…みたいな?正直俺は分からなくて。」
《なる程……暇になったら其方に伺いますね、面白そうなので。》
「ふふっ、是非いらして下さい。」
棗先生とは、あれからこんな感じだ。
会えば会話をしたり、分からない問題を聞いたり。
先生は…前よりかは穏やかだけれど、少し緊張するのかあまり話をする場面は見た事が無い。
やっぱりまだ引き摺っているのかな…
《真羅先生の事ですか?》
「ぅえっ!?」
《ふふふっ…貴方は少し分かりやすいですね。》
「そ、そんな分かりやすいですか…?」
《……さあ?》
含みを持たせた回答と微笑み…
棗先生は相変わらずよく分からない人だ。
「棗先生こそ、桐生君とはどうなんですか?」
《そうですね…あまり深く関わろうとしていなかったので…最近の若者の考えが分からなくなる一方です…》
「若者って…棗先生もお若いでしょう…」
《一応真羅先生よりかは4つ上ですよ。》
「えっ…!」
《ふふふ…》
先生と同い年か二個下かと思っていた…
童顔なんだな…
「休日とかは出掛けたりしてます?」
《提案はしましたけど…彼は私の解剖の手伝いをしたり、見ている方が楽しいとかで…首を横に振るんです。》
「………。」
桐生君…
多分棗先生が楽しそうにしているからなんだろうな…
二人してお互いの事を思ってるなんて…少し微笑ましい。
《……馬鹿にしてます?》
「いえいえそんな…」
口元を緩ませてしまった俺を一瞥した棗先生は、何だか拗ねてるようにも見える。
案外この人も分かりやすいタイプなのかも…
「…もし良かったらですけど、桐生君に聞いてみましょうか?」
《良い提案ですね…お願いしても?》
「もちろんです。」
《………。》
「?…どうかしました?」
《いえ……貴方は優しい人ですね…》
急な言葉に驚いていると、棗先生は優しく微笑んだ。
《私は…貴方に酷い事を沢山した、けれどこうして話し掛けたり…色恋に協力的だったり…》
「それは…」
《真羅先生が貴方を選んだ理由が、少しわかる気がします…》
「………。」
《傷…痛みますよね、良かったらこれを塗って下さい。》
そう言って差し出したのは…塗り薬?
けれど、見たことの無い容器に入っている。
《私が作った物ですが、効果はあると思います。》
「えっ……えっ!?作った!?」
《えぇ、昔は買ってもらえなかったので…その名残で…自分が作った方が効き目も良かったので。》
「………。」
《…使いたくないですよね…》
「あっ…違います!単純に…凄いなって思って……ありがとうございます!大切に使わせていただきます!」
《……はい。》
ふわりと微笑んだ棗先生に、もう一度深くお辞儀をして立ち去った。
単純かもしれないけど、俺は棗先生を良い人だと思う。
過去がどうあれ、あの時がどうあれ…優しい人である事は間違いない。
少し軽くなった足取りで、クラスへと戻った。
実行委員の姿を見つけ、暗幕を片手に近付く…
「持ってきたけど、どこに置いとく?」
〘ありがと〜!明日貼り付ける予定だから…ロッカーの上に置いといて!〙
「ん、分かった。」
言われた通りにロッカーへ乗せる。
他にも物があって中々乗らない…押し込んでみると、ギリギリ乗せる事が出来た。
やっぱり危ないし、他の所にしよう。
「…っと、……あ。」
横にあった段ボール箱が、グラリと傾く。
瞬間的に落ちると判断して、身を守ろうとロッカーの上へと片腕を伸ばす。
意外と自分が重かった。
〔勇間!!〕
日下君の声が近くに聞こえたが、目を瞑った俺。
暫くしても衝撃は無く…でも、確かに段ボールが落ちた音はした。
恐る恐る目を開けると、目の前には日下君と先生が俺に覆い被さっていた。
「あ…」
〔怪我は!?無い!?〕
「う、うん……と言うか、何で先生が?」
『たまたま通りかかった…』
「………。」
絶対嘘だ。
疑いの目から逃れる様に、先生は俺の上から退いた。
するとすかさず周りの生徒達が、二人に駆け寄る。
〚真羅先生大丈夫ですか!?〛
«めっちゃカッコ良かったよ真くん!»
『大丈夫大丈夫。』
{龍、すげぇじゃん!}
〔まぁねぇ〜…つっ…〕
「………。」
〘勇間君…大丈夫?〙
「え、あ…うん、大丈夫だよ。ごめんね…中身ばら撒いちゃった…」
〘んーん、そんな事は全然気にしないで!あ…ここ擦りむいてる。〙
俺の手を取り、少し血が出ている部分にハンカチを当ててくれた。
振り払うのも……と、悩んでいると先生が俺の手を取った。
「先生…」
『ありがとな、それ以上はハンカチが汚れちゃうぞ。』
〘あ……い、いえ私のは〙
『保健室で絆創膏貼ってくるわ。』
〘あ……〙
俺の手を掴んだまま教室から出た先生は、保健室に向かうつもりは無いみたいだ。
怒られるような気がする…
一人で悩んでいると、空き教室に入れられた。
『危ない事するなって言ったろ……しかも怪我してるんだから。』
「はい……でも、かすり傷程度です。」
『勇間。』
少し強めに俺を見つめた先生…
あの件から本当に過保護になった…正直面倒だ。
「ごめんなさい…」
『………。』
「じゃあ…教室に戻りますね。」
『待て。』
「ぅわっ…!」
出口に向かおうとする俺の首を掴み、後ろから抱き締めた…
力が強くて…少し苦しい。
「せ、先生…?」
『ごめん…もう少しこのままで居させて…』
「え、あ…はい…」
もう少し…って…
いつこの教室の扉が開くかも分からないし…
あまり長くは…
でも…珍しいし…
「………。」
『身体、大丈夫か?』
「ま、まぁ…それなりに痛いですけど……棗先生から頂いた塗り薬があります。」
『塗り薬?』
「はい、これなんですけど…」
ポケットに仕舞ったままの容器を取り出す。
まじまじとそれを見る先生は、何だか疑ってるようにも見えて…
「棗先生が作ったやつで、効き目が凄いらしくって…」
『…ふぅん………塗ってみるか。』
「えっ…!?」
『少しでも痛みが和らぐなら、使ってみてもいいだろ?』
「あ、いやっ…でも…」
使うということは…
ここで上裸になるという事で…いやでも、薬を塗るだけだから…
『ふふっ…』
「先生……揶揄ってますね…?」
『バレた?』
焦った俺を見て笑いだした先生。
何だか負けてる気がする…
意を決して、ブレザーのボタンに手を掛けた。
『………。』
「…っ…」
焦ると思ったのに…凄く見られている。
余裕そうな顔で、ずっと見ている。
俺も気が引けなくなって、負けじと脱いでいく…
あとはシャツを脱ぐだけ………脱ぐ、だけ…なんだけど…
頭の隅で、腕の傷を晒すことを嫌がる自分がいる。
「………。」
今更…なのに…
けれど実際、先生に見せるのは躊躇ってしまう。
止まった俺に気が付き、着ていたジャケットを被せた先生。
『無理強いはしてないから…やらなくていい、ごめんな。』
「………。」
違う…
違うのに…
身体が…動かなかっただけで、俺は別に嫌なわけじゃ…
『勇間、こっちおいで…』
「………。」
温かい陽射しが当たる窓際に、先生が腰を下ろして手招きしている…
ゆっくりと近付けば、また抱き締められる。
優しく…包み込まれて、段々と複雑に絡んでいた思考が解けていく。
「ごめん…先生…」
『ん?』
「俺……」
俯いて露わになった俺の首筋に、先生はそっとキスをした。
優しく…まるで諭すように…
『大丈夫、嫌がるのを無理やり見たい訳じゃ無い。勇間の気持ちがちゃんと整ってからで良いんだ。』
「…でも…」
『それに未成年だし。』
「今更それ言われても…」
『ははっ、確かに。』
先生はそう言っても、俺だって男だし…
それなりに…色々…
「…っ…」
駄目だ、これじゃ俺の気持ちしか無い…
先生は俺のことを考えて言ってくれてるのに、なのに…
『なぁ、勇間。』
「はい…?」
『こっち向いて。』
「………。」
言われた通り、向かい合わせになる。
再び抱きしめられ、先生の匂いが鼻に抜けていく…
落ち着く匂い…
『俺は勇間が大切だ…誰よりも、何よりも。』
「うん…」
『他なんて無いんだよ。』
「………。」
『勇間が傷付けば、俺も辛いし苦しい……笑ってくれれば、嬉しいし幸せだ。』
「うん…」
『だから良いんだ…俺達は俺達のペースでやろう。』
「…先生、ありがとう。」
『なんのこと?』
「ふふっ…」
『…はー、俺って幸せ者だな。』
また強く抱き締められる。
今度は苦しくなくって、少し擽ったい。
「急に何ですか…ふふっ」
『好きな人と結ばれて、こうして微睡む…幸せ過ぎる。』
嬉しそうに微笑みながら、俺を抱えたままゆっくりと前後に揺れる。
先生が思うなら俺はそれ以上に幸せだよ…
「俺もです…先生と出会ってからずっと、ずっっと幸せ………あの頃は毎日死にたいと思ってた。神様なんて居ないって、助けを求めても無駄だって…」
藻掻いて…苦しくて…
痛みが生きてると感じられた。
だから、毎日毎日切って…溢れる血だけが温かくて…
「ストレスの捌け口になる事が、俺の唯一の存在価値……父がそう言ったあの日から、それだけしか頭に無かった。」
『勇間…』
「父だけじゃなくて、他の奴等にも触られた…それを消したくて何度もなんとも擦って、それでも落ちなかったんだ…」
擦りすぎて赤くなった身体…血が滲んで醜かった。
他人に触れられて…自分でも傷付けて…
気持ち悪い…
穢れてる…
こんな身体、先生が見たら…
「穢れてるんだ…だから本当は先生が触れても良い人間じゃ」
『勇間。』
「あ………お、俺……なに……ご、ごめんなさ…」
『うん…俺は大丈夫、勇間…腕放して。』
「………。」
自分の腕を強く握り締めていた手に、先生の手が重なる…
強く握り過ぎて、爪が食い込んでいた。
「………。」
俺は…こんなにも幸せそうな人を、自分の言葉で…行動で悲しませている…
駄目な人間だ…なぜこんな風にしか言えないんだろう。
もっと他にあった筈なのに…
『勇間…顔上げて?俯いてたら顔が見れないよ…涙も拭ってやれない。だから、ね?顔上げて…』
「…っ…」
『ははっ、可愛い顔が台無しだよ…笑って、勇間。』
涙や鼻水でぐちゃぐちゃな俺の顔を、先生は優しく袖で拭ってくれる。
俺を包み込みながら、優しく微笑んで…
「ごめんね、先生…」
『恋人の弱ってる姿を見られるのは嬉しい事だよ、何も悪いことなんてない。』
「…っ…」
『もっと見せてくれても構わないんだよ?』
「そ、れは…っ…やだ…」
『え〜……って、そんなに強く擦らないの…赤くなっちゃうよ。』
優しく微笑んでいるこの人は、どんな事でも俺を肯定してくれる…
優しくて…でもそれがたまに残酷で…
いつかこの優しさに…足の先から頭の天辺まで浸かってしまって、抜け出せなくなってしまったら…
『勇間…』
「……。」
『好きだよ。』
暖かい光を纏う笑顔が…やっぱりあの頃から眩しい…
思わず目を瞑ってしまえば、唇に柔らかい感触が当たる。
次第にそれは、深くなっていく…
「…っん……ぁ…んぅ…っ…」
隙間から自分の息と声が漏れてしまう…
恥ずかしくて、後ろに下がろうと動く。
けれど、先生の手がそれを許してくれない…
後頭部を抑え…腰を抱く…
身体の奥が熱くなって…思考が溶けていく…
「…っ…は…」
『ん………可愛い。』
妖艶に微笑んだ先生…
欲情の色を纏う瞳が、真っ直ぐ俺を射抜く。
もっと…もっと…
そう望んでしまうほど、魅力的だ。
『そんな可愛い顔するな…止められなくなんだろ…っ…』
眉間にシワを寄せ、困ったような顔をした先生は…
男の俺が見ても…格好良い。
ゾクリと背中が震える…
「…ぁ……っ…」
『チッ……』
「…ぅあっ!?」
舌打ちをした直後、俺の首筋に噛み付いた。
引っ張られた勢いで、上段のボタン二つが千切れてしまった…
「っ…せ、んせ…っあ…っ…」
緩急を付けた痛みが、甘く身体に響いていく…
先生の服をしがみつく様にして握り締める。
段々と立っていられなくなってきた…
「もっ……だ、め…っ…」
『…っはぁ…っ…』
ギリギリの所で、先生は離れた…
噛み付いた箇所に軽くキスを落とし、そこから頬…唇…
そしてまた…優しく微笑む…
こうして、暖かい光は時に妖艶に俺を誘うのだ…
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