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暫くして、教室に戻ると何だか騒がしかった。
人だかりの中心に、日下君が居る…
「何かあったの?」
近くに居た生徒に尋ねる…
{あ、あぁ…さっきので頭を打ったらしくって…急に倒れて…}
「…!!」
{今保険の先生呼びに誰か行ったけど…目を覚まさなくて。}
「日下君…!」
人だかりを掻き分けて、日下君の元へ駆け寄る。
俺のせいだ…
俺なんかを庇うからこうなったんだ…っ!
「ごめん…ごめんね…」
[お前ら何やって……どうした?!]
騒ぎを聞きつけたのか、叶先生とその他の先生が来て…
それと同時に保険の先生も教室に入って来て、日下君は担架で運ばれていった。
それを俺はただ呆然と見ている事しか出来なくて…
〘……大丈夫?顔、真っ青だよ?〙
「お、れの…せい、なのかな…」
〘え…?〙
「俺が…もっと気を付けていたら…こんな…っ…」
〘ち、違うよ!私がお願いしたから…勇間君は悪くないよ!〙
「………。」
俯く俺の肩に、そっと手を起き優しい言葉をかけてくれる…
何をしても…誰かを巻き込んで、怪我をさせてしまう。
俺は…駄目な人間だ…
[倉沢、ちょっと良いか。]
「は、はい!」
叶先生に呼ばれ、人だかりの中から抜け出す。
廊下は凄く静かで…冷たく感じた。
[どうなったのかは他の生徒から聞いた…お前、怪我は?]
「お、れは…大丈夫です…」
[そうか…段ボールの中に何が入ってたか覚えてるか?]
「えっ…と、落ちた時に中身が出てて……」
[………。]
「要らない紙と…木材が入っていた気がします。」
[木材…か……ん、分かった。ありがとな。]
「………。」
肩を軽く叩いた叶先生は、俺の曇った表情を見て眉間に皺を寄せた。
[そんな顔すんな、お前のせいじゃねぇ…これは事故だ。]
「はい…」
[これ以上目が覚める見込みがなければ、病院に連れて行く予定だ……お前も来るか?]
「………。」
どんな顔をして会えば…
皆は俺のせいじゃないって言ってくれるけど…でも、俺がもっとちゃんと…
[はぁ……言い方を変える、お前も来い。]
「え…」
[強制だからな、来なかったら迎えに行くからな。]
そう言い捨てて、叶先生は去って行った。
残された俺は…床を見つめる事しか出来なくて…
溜息を吐いて蹲る。
そこに、実行委員がやって来た。
〘勇間君…〙
「ごめん、今はそっとして置いて欲しい…」
〘…っ…やだ。〙
「………。」
〘だって、今の勇間君を放っておけないもの…顔青くして、今にも倒れそう。〙
ゆっくりと近付き、手が伸びて来る…
俺に触れようとしている…
「あ…」
『勇間、叶先生から聞いたぞ。』
〘………。〙
またタイミング良く、先生が来てくれた。
伸びていた手は胸元へと戻って行き、一歩…俺から離れた。
『お前…今日表情豊かだな〜。』
「先生…お、俺のせいで日下君が…っ…」
『落ち着け…大丈夫だって、日下君意外とタフなんだから。』
「………。」
『……会話の途中だったか?』
チラリと横目で女生徒を見た先生…
その目は少し冷たい…
それを感じ取ったのか、ビクリと肩を揺らした女生徒。
〘あ、いえ…ただ、勇間君が心配で…〙
『そうか…君は取り敢えず、教室に戻って準備の続きをやりなさい。』
〘………。〙
『状況説明者で、倉沢は借りてくからな。』
〘はい…。〙
俺の肩を掴み、歩き出す。
すると突然先生は、俺の襟を引っ張った。
「ゔっ…な、何するんですか…ゲホッ…」
『ごめんごめん、ゴミが付いてたんだけど中には行っちゃって……でも、もう取れたよ。』
にこりと微笑み、再び歩き出す。
というか、今の位置的に先生の噛み跡見られたんじゃ…
もしかして…先生…
「先生って案外、色恋沙汰だと心狭いですよね。」
『そりゃそうだろ。』
「………。」
『それにあの生徒…最近ずっと勇間の近くに居るし、そりゃ牽制もしたくなるよ。』
「開き直らないでくださいよ…バレたら大変な事になるんですから。」
『じゃあすぐに卒業して。』
「無理です。」
暫くして、お互いに吹き出した。
子供みたいに意地を張る先生が、とても可愛い。
準備で皆が忙しい中、誰も通らない廊下を渡る…
何となく手を繋ぎたくて…そっと、先生に触れた。
『ん?どうした?』
「手…」
『んー?』
分かってて意地悪をする先生、けどそこも俺は好きだ。
愛おしくて…
手放したくなくて…
俺だけに向ける愛情が何よりも嬉しい。
「先生。」
『……はいはい。』
優しく繋がれた手を、いつまでも握っていたい…
けれど、永遠を願う事は出来ない。
先生は他の人と幸せになるべきだ…
子供も欲しい筈だ。
『勇間…?』
考えすぎていつの間にか強く握っていたらしい…
それでも優しく笑うこの人を、俺はやっぱり手放したくないと思ってしまう。
嗚呼…俺が女だったら良かったのかな…
保健室に着くと、日下君は何食わぬ顔をしてお茶を飲んでいた。
「く、日下…君…?」
〔ごめんごめん、心配掛けたよな〜…!〕
頭を乱雑に撫でる手が、いつもと変わらなくてホッとする…
それを見ていた先生も…優しい表情になっていた。
「き、記憶障害とか…そう言うのは…」
〔ん?無いよ!無い無い!軽い脳震盪だって!〕
「笑い事じゃ……」
豪快に笑い飛ばす日下君を見ていたら、つい先程まで悩んでた自分が馬鹿らしく思える。
俺の心配を返してくれ…とかも思ったり。
〔んで?真羅先生も気にして来てくれたんだ?〕
『まぁな…一応叶にも伝えとくよ。』
〔……?〕
『ん?どうした?』
急に押し黙った日下君は、不思議そうな顔をしている。
〔何で叶先生?〕
「え……」
『…は!?』
〔え?俺なんか変なこと言った??〕
「変なこと…って……」
思わず先生を仰ぎ見る。
もしかして…もしかすると…
『日下君、この人は?』
〔え?勇間…〕
『俺は?』
〔真羅先生。〕
『じゃあ…この人は?』
そう言って叶先生の写真を、日下君の目の前に差し出した。
俺と先生を交互に見ながら…
〔叶先生…?〕
『………。』
いや…叶先生なんだけど…
いつもの呼び方じゃない。
そこが俺と先生は引っ掛かってる。
〔え、なになに?!〕
「日下君、叶先生の事…何て呼んでたか…その…」
〔え?叶先生は叶先生でしょ?他に何かある?〕
「………先生…」
『あぁ、病院に連れて行こう。』
俺達の考えが一致したのと同時に、保健室の扉が開いた。
今一番会わせてはいけない人が…そこには立っていた。
『叶…』
[大丈夫か?!]
『ちょっっとこっち来い。』
[は?]
『良いから。』
引き摺られながら、再び叶先生は教室から出て行った。
取り残された俺は日下君を見据える。
先程のやり取りも、今の状況も把握出来ていない…そんな顔をしている。
「………。」
〔叶先生あんな顔するんだね…知らなかった。〕
「いや…ど、どうだろうね〜…あは、はは…は…」
〔なあ勇間、俺と叶先生なんかあったりする?〕
「…っ…」
答えに戸惑う俺を、真剣な顔で見つめてくる。
どう答えたらいいんだろう…
二人の事は知ってるけれど、関係がどこまで進んでいるのか…
悩んでいると、先生達が戻ってきた。
話したのだろうか…この状況を…
〔叶先生…〕
[まぁ…特に怪我が無くて良かったな。]
〔は、はい。〕
[……じゃ、俺仕事に戻るわ。]
〔待って!〕
出て行こうとする叶先生を引き留め、けれど何を言っていいのか分からず戸惑う日下君。
[何だ…]
〔えっと……俺と叶先生って……〕
[………。]
恐る恐る聞く日下君…
その姿を見た叶先生が、大きく溜息を吐いた。
少し…震えてるようにも聞こえた…
辛い筈だ、愛する人に忘れられてしまったんだから…
[ただの生徒と教師だ…それ以下でもそれ以上でもねぇよ。]
ハッキリとそう告げた叶先生は、悲しそうに…それでいて優しく微笑んだ。
胸の奥が締め付けられる感覚がする…
〔そ、っか、……〕
[じゃあな。]
〔うん…〕
「かな…っ…」
『………。』
追い掛けようと立ち上がった。
でもそれは先生によって止められた…
先生は、首を横に振っている。
一人にさせておけ…そう言いたげだ…
でも…叶先生が…
『日下君、今は思い出せないだけかも知れないから…』
〔思い出せない…って、やっぱり俺達…〕
「………。」
〔腹違いの兄弟…とか?!〕
「…だとしたら君の親は頑張り過ぎだよ…」
〔え〜じゃあ何だよ!!分かんねぇよ!!〕
半ば呆れてくる…
ここまで叶先生の事だけ忘れるなんて…
『………。』
〔でも…何か…何だろ…〕
「ん?」
〔あんな顔…させちゃいけない気がする…〕
「………。」
〔泣きそうな……あんな顔…〕
泣きそうなのは…君もだよ、日下君…
前に…見せたあの表情と一緒だ。
苦しい…
ううん、苦しいのは…一番苦しいのは…
叶先生だ…
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