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日下君は相変わらず、叶先生への気持ちを思い出さない。
もどかしくて…俺も辛い。
叶先生を見つめる日下君の瞳は、あの頃から何も変わってないのに…なのに、そこに彼の気持ちは無い。
先生と俺は、お互いの家に居る事にした…
叶先生は目を赤くして、真羅先生と帰って来た。
痛々しい姿が…また胸を締め付ける。
いつも通りに振る舞おうとしてるのが、また…
けれど、それと同じくらい日下君も苦しんでる。
叶先生を愛おしそうに見つめ、フォルダの中の愛する人を見ては…痛みに顔を歪ませる。
それが頭から離れなくて…眠れなくて…
身体を起こし、溜息を吐く。
何か飲み物を…と思い、リビングへ向かうとそこには冷蔵庫を開け、溜息を吐く日下君の姿が…
〔はぁ………〕
冷蔵庫の中で何かを見つけたのか、動かない。
〔かなちゃん…の分……〕
ポツリと呟いた言葉…
懐かしく感じる言葉…
手に持っていた携帯を落としてしまい、日下君がこっちを向いた。
「く、さかく……今…」
〔え?〕
「叶先生の事、思い出した?」
〔……ううん、これ…〕
少し落胆しながら、彼の手にあるプリンを見る。
日下君の字で"かなちゃんの分"と書いてあった…
それを読み上げただけだったのか。
「少しは眠れた?」
〔まぁ……〕
眠れていないんだな…窶れた表情だ。
俺は日下君の元へ来たけれど、何も役に立てていない気がする…
寧ろ逆に気を使われてる気がする。
〔何か…俺格好悪いな…〕
「…そうかな?」
少し可笑しくて、笑ってしまう。
そんなこと無いのに……弱気な日下君の姿が、先生と重なる。
きっと不甲斐なく感じてるんだな…と、思った瞬間…
〔…っ…!〕
「日下君!?大丈夫?頭痛むの?」
〔…っ…だい、じょう…ぶ…〕
頭を抱えて前のめりになった日下君は、苦しそうな表情をしている。
低く唸りながら、冷や汗を拭う…
何かしてやりたい…けど、どうしたら…
途端、目を見開いて固まった。
何か思い出したのだろうか?
〔…っ……?〕
頭を抑えながら、首を傾げた。
痛みは引いたのか、大きく溜息を吐いている…
〔ごめん…もう一回寝る…〕
「う、うん…無理しないでね…」
〔おやすみ……〕
壁伝いに部屋へ戻っていった…
ごめんね…何も支えられなくて…
何か力になりたいのに…俺は何も知らないし、何も出来ない。
二人の事…もっとちゃんと知っておけば良かった。
どこまで首を突っ込んだら良いのか…
不安になってしまうくらいなら…
「………しっかりしろ、俺。」
ポツリと呟き、両頬を叩いた。
俺までグラついてたら駄目だ、ちゃんと傍に居て…
二人を見届けないと。
〈たっつーん!〉
〔おー、美久…っとと、急に抱き着くなって。〕
日下君は、最近女の子と居るようになった…
まるで…思い出す事から逃げてるみたいだ。
俺との会話も、最低限になり…彼からは女の子の香りしかしない。
目も虚ろで…笑っているのに笑っていない。
もうずっと、日下君が分からない…
叶先生の事も避けているようだし…
俺は本当に、どう接したら良いんだろう。
〈って、聞いてるー?〉
〔ん?あぁ、ごめんごめん…〕
つまらなさそうに、女の子の話を聞いている。
そんな顔するならやめればいいのに…
けれど、俺には言える権利が無い。
友人だけれど…友人だからこそ、言えないのかもしれない。
そんな事を思いながら、女の子が去って行った隙を見て日下君の元へ駆け寄る。
「日下君。」
声を掛けても無反応だ。
何か別の事を考えている…
「…君………日下君?」
〔勇間…〕
「大丈夫?ぼーっとしてる…」
〔うん…大丈夫。〕
「………。」
〔次移動だよね?行こっか。〕
「うん…」
席を立つと、日下君が窓の方を向いていた。
俺もつられて窓の方へ目をやる…
そこには叶先生が居て、彼もまた…少し寂しそうに微笑みながら先生と会話をしていた。
先生…俺はどうしたら良いのかな…
見届けると決めたけど、どこまでしても良いのかな…
分からない事だらけだ。
溜息を吐きそうになりながら、日下君と教室を出た。
外程では無いが、廊下も寒い。
「寒いね…」
話し掛けても何も帰ってこない。
日下君、無理しなくても良いんだよ…そう言いたい。
けど……
〔ね、勇間…〕
「ん?」
日下君に呼び止められ、振り返る。
〔俺もう疲れたよ…〕
「日下君?」
〔どうしたらいいかも分からない…〕
彼の目線が、階段へと向けられる。
まさか…
〔ごめんね、また迷惑かけちゃうかも…〕
「日下君!!!」
ニコリと微笑んだ顔は、優しくて…でも…泣いてる様で…
待って…
行かないで…
日下君に駆け寄り、手を伸ばす。
「日下君!!待って!!」
どんなに叫んでも、日下君には届いていない。
大嫌いな神様、お願いだから日下君を連れて行かないで…!
騒いでいる俺の周りに人が集まって来て、その中に日下君は目を向けた。
目を見開いて、そして愛おしそうな瞳を向け…呟いた。
〔かなちゃん…〕
[龍!!!]
最愛の人を呼んだ。
なのに…彼は止まらず、階段下へと落ちて行った。
「…っ…く」
[龍…っ…龍!!おい!!]
俺のすぐ横から、叶先生が飛び出す。
日下君の肩を抱き、何度も呼び掛けている…
彼の額からは血が出ていて、顔がどんどん白くなっていく。
[龍、龍…]
繰り返し、彼の名前を呼ぶ叶先生は…酷く震えていて…
『叶!ハンカチで額を抑えとけ、お前ら教室に入れ!』
「………。」
最悪の結果だ。
最悪の状態だ。
足に力が入らなくて、その場に座り込む。
叶先生は、まるでロボットの様に日下君の名前を呟いている…
悔しそうな表情を浮かべ、それでもこの場を何とかしようと先生は必死だ…
じゃあ…俺は?
俺は何をしていた?
彼の異変に気が付けないで、こんな事を引き起こして…
あと少しで、掴めたはずの手を…
彼が愛しい人の名を呼んだだけで驚き…固まって…
その瞬間が無ければ、彼は落ちる事なかったかもしれないのに…
俺は…
『勇間…』
「せ、んせ……れ……俺…っ…」
『……取り敢えず、お前も教室に戻れ。』
「お、れのせいだ……俺が、気付いていたら…俺、お、俺っ…」
『…っ……誰のせいでも無い。だから自分を攻めるな、日下君はそんな事をさせたくてやったんじゃ無いだろ。』
「……っ…」
嗚呼…先生、駄目だ…駄目なんだ…
俺は、もう分からない…
これからどうしたら良いのかも、どう接するべきなのかも…
分からないよ…
『また後で連絡する…』
「………。」
神様にも願ったのに…なのに…
どうして…どうして…っ!
これ以上、彼らの道を隔てないで…
彼らの道が、照らされる日はあるのだろうか…
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