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先生と合流し、病院へと向かう。
叶先生も一緒かと思ったが、日下君が運ばれるのと一緒に救急車で病院に行ったみたいだ。
「………。」
『勇間?』
「………。」
『……大丈夫だ、お前が悔やむことじゃない。』
「でも…」
『それに日下君、ああ見えてしぶといし…またお茶飲んでるかもよ?』
悪戯っぽく笑った先生は、俺の頭を優しく撫でた。
先生…
先生も、心配なんでしょ?
俺の頭を撫でる手が、震えてるよ…
病院に着き、処置が終わった日下君の病室を探す。
何度も来ているが…やはり独特なこの匂いは、嫌な気分になる。
ノックをするが、音沙汰無しだ…
叶先生は大丈夫なのかな…
そう思いながら立ち竦んで居ると、先生は扉を開けた。
ベットに横たわる日下君の側に、今にも倒れそうなほど青い顔をした叶先生…
『叶…少し休め。』
[………。]
日下君の手を握り、泣きそうな表情のまま動かない。
眉間に皺を寄せて…苦しそうだ…
額から血を流している日下君を、ずっと抱きかかえ…救急隊員が引き離そうとしても、しがみついていた。
その姿を見て…胸が張り裂けそうだった…
『叶…』
[分かってる…けど、傍に居たいんだ…]
『………。』
「叶先生、コーヒー買ってきました…どうぞ。」
[あぁ……ありがとな。]
ここに来る前に買った缶珈琲を差し出す、ゆっくりとした動作だったが…受け取ってもらえて良かった。
微かに触れた叶先生の手は、冷たくて…
「………。」
『外で待ってるから、帰るとき声掛けてくれ。』
叶先生の頭を撫でた先生は、俺の背中に手を添えて病室から出た。
扉から閉まった瞬間、声を押し殺した嗚咽が微かに聞こえる。
「………っ…」
つられて俺の目から、涙が溢れた。
安心した…けれどそれ以上に不安だった…
いつも優しく、面倒見が良くて…
気を遣っていたんじゃ無い、彼のその性格に甘えてたんだ。
『勇間…』
「す、みませ…っ…泣くのは、お、れじゃ…っ…無いのにっ…」
『良いんだよ…お前は大切な友人の事を思って泣いてるんだ、誰も責めない。』
俺の手を握り、少し寄りかかる先生…
その体温が…じわりと胸の内を解していく…
「俺が…ちゃんと気付いていたら…」
『………。』
「日下君は……っ…」
『勇間、お前はこうなった事を責められたいか?』
「………っ…」
『叶は、責めたのか?日下君は責めるのか?』
首を強く横に振り、また先生を見つめる。
困った様に眉を下げて、先生は笑った…
『それならもう泣くな…勇間の泣く姿見たら、俺どうしたら良いのか分からなくなる…』
「…っ…ごめ、なさ…」
『謝らなくて良い、今は二人の為に色々考えてやろう。』
「はい…っ」
それから、気を紛らわす為に色々離した。
鍋パーティーをするか、とか…
『あ、じゃあ遊園地とか?』
「それは…どうでしょう…」
『勇間は行った事ある?』
「無いですけど…俺が楽しんじゃ…」
『お前が楽しそうにするのも、あいつらは喜ぶぞ?』
「いや…でも」
[龍!]
反論しようと口を開いた瞬間、病室から叶先生の声が響いた。
驚きながら、先生と一緒に中へ入る。
『どうした?!』
叶先生が、驚いた顔でこちらを見た。
握った手を指差して、少し嬉しそうに…
[今…手、動いた!]
〔ん……ここ、どこ…病、院…?〕
「日下君!!」
〔あれ……勇間…〕
ゆっくりと日下君の目が開いた…
俺と先生を見つめて、優しく微笑む。
嗚呼…良かった…本当に…
〔真羅先生も…〕
けれど、神様はいつだって残酷なんだ…
[た]
〔アンタ誰?〕
[…つ……?]
叶先生への気持ちを、忘れさせるだけじゃなくて…
彼自身を忘れさせてしまった。
驚きを隠せない様子の叶先生…
俺も、先生も同じ様に驚いて何も言えなかった。
暫くの沈黙の後、ゆっくりと口を開いたのは…叶先生だった。
[……俺はお前の通ってる高校の教師、凛堂叶だ。真羅の友人…んで、俺の目の前でお前が階段から落ちた、以上。]
〔あ…なる、ほど……〕
『かな』
[あと、俺とお前だが…友達以上恋人未満の関係だ。]
けど、叶先生は淡々と告げた。
自分達の関係も、全て…
ニヤリと不敵に微笑んだ叶先生は、何だか楽しそうだ。
『!?』
〔えっ!?〕
「か、叶先生!?」
突然の事に、俺も先生も…日下君も驚いて声を上げた。
告げるとは思っていなかったんだ、けどこんなにあっさりと…
思わず先生を見つめるが、呆れた様な…それでいてこの状況を楽しんでいる様な顔…
日下君は、驚きを引き摺りながら頬を掻いた…
〔付き合っては…無いん、だ…?〕
[あぁ、そうだな。そこはお前が自力で思い出すんだな。]
〔えぇ!教えてくんないの!?〕
[そこまで俺は優しくねぇ。]
〔ひっど!!何この人!!〕
[はははっ!]
「………。」
笑っているけれど…何だか無理している様に見えて…
凄く心配だ…
手元を見れば、微かに震えている。
声を掛けようとしたが、先生が俺の前に腕を出し止めた…
先生も気が付いたんだ…
『叶、ちょっと良いか。』
[ん?おう。]
先生は、そのまま叶先生と病室から出て行った。
取り残された俺は、日下君の近くにある椅子へ腰を下ろす。
「目が覚めて良かった…」
〔ごめん、心配かけて。〕
「二度としないでよ。」
〔うん…〕
「これからはちゃんと、俺に言って欲しい。力になれるよう頑張るから…」
〔うん。〕
微笑んだ日下君は、いつもの日下君だ…
優しくて…暖かい笑顔。
〔で、あの…さっきのだけど…〕
「………。」
〔あれマジ?〕
「……うん、本当…」
〔…そっ、か…そっか〜、いや目が覚めた時ちょっと懐かしい気持ちになったんだよね。〕
「懐かしい気持ち…?」
〔そ、なんだろ…ずっと会ってなかった友達と会った…みたいな?〕
首を傾げながら、そう問いかけてくる。
〔でも…友達って感覚じゃ無かった…〕
「………。」
〔これが何なのか…俺、分かるかな…〕
「…大丈夫だよ。」
〔そっか…うん、大丈夫か。〕
嬉しそうに笑う日下君を見て、安心した。
叶先生のカミングアウトに、驚き…正直気持ち悪がられると思った…
でも、ちゃんと考えてくれてる。
〔勇間?〕
「ん?」
〔俺、叶先生との事…ちゃんと考えたい。〕
「うん…」
〔前がどんな風だったのかは分からないけど…〕
包帯が巻かれた頭に手を添え、少し考え込んでいる。
手土産で持ってきたリンゴを剥きながら、微笑んでしまう。
〔こんな事するくらい…嫌だったのかな…〕
ポツリと呟いた言葉に、俺は手を止めた。
「それは違うよ。」
〔………。〕
「酷い事言うかもしれないけど……日下君は、叶先生との関係を考えるのを諦めたんだ。」
〔………。〕
「苦しむ姿を見てたのに、気付けなかった俺にも否はあるけど…」
〔そんなこと無いよ……ごめん、変な事言って。〕
「ううん、俺もごめん……あ、先生達呼んでくるね。」
〔うん。〕
「少しでも長く、叶先生と会話をしようよ。」
〔そうだね、俺も聞きたい事いっぱいあるし!〕
「ふふっ…早く思い出せると良いね。」
〔うん、ありがと。〕
扉を少し開け、先生達の方へ向く。
何やら色々と話していて、俺に気付いていない様子…
「あの…」
[おう、今行く。]
立ち上がった叶先生は、近くのゴミ箱に缶を捨ててこちらに近付く。
身体を全て外へ出し、叶先生の前へ立つ。
「……叶先生。」
[あ?]
いつも通りに振る舞う叶先生…
それでも、先程の弱った姿が脳裏にこびり着いている。
ちゃんと言わなきゃ…
[どうした?]
「俺、叶先生が悲しそうに笑うの…見たくないです。」
『………。』
「俺は叶先生に同じ顔を…前にさせてしまった…」
叶先生が、まだ先生を好きだったあの頃…
俺は何も気付いてなくて、傷付けていた。
痛々しく笑う姿は、もう見たくない。
[倉沢、それは]
「叶先生には幸せになってもらいたいんです!」
[………。]
俺が奪ってしまったのなら尚更…
それだけじゃない、俺は叶先生と大切な友人を支えたいんだ。
ずっと支えられたから、少しでも返していきたい。
「せっかく…せっかく二人が出会えたのに…なのにこんなので終わりなんて、俺は…」
[はぁ…]
溜息を吐いた叶先生は、俺の頭を軽く叩いた。
[終わりなんて、まだ誰も決めてねぇだろ?]
ニヤリと口端を上げ、強気な一言。
何だか嬉しくて、思わず笑みを零す。
先生も、どこか安心した表情をしていた…
[ま、なるようになれって話だ。]
「叶先生……」
[…アイツ、大丈夫そうか?]
「………はい、照れてるのか…誤魔化してましたよ。」
向き合おうとしてくれてる…のは言わなくても気付くと思う。
日下君の事だし、もしかしたら直接言うのかも…
[ふっ……暫く面白いのを見るか。]
病室に入り、叶先生は立ち止まり前を見据えた。
日下君は身体を起こして、リンゴを食べていた。
〔………。〕
すると、日下君は叶先生を真っ直ぐ見たまま動かなくなった。
何事かと思い、俺も中に入ろうとしたが…先生が引き止めた。
「え、ちょ…先生?」
『今は二人にさせてやろう。』
「でも…」
『俺、一週間近く勇間とイチャつけてないんだけど?』
「う…」
いじける様にして、俺の顔を覗き込む。
溜息を吐きそうになったが、抑え込んで隣に座った。
二人は今…どんな会話をしてるのだろうか…
『日下君は大丈夫そうだったか?』
「はい、叶先生と向き合う…そう言ってました。」
『そうか…』
優しく安堵したように微笑んだ先生…
けど、引っ掛かってる事がある。
「先生…」
『ん?』
「日下君…もう、叶先生の事ずっと呼ばないんですかね…」
『あー…かなちゃん、って?』
「はい…」
そう呼ばれる度に、擽ったそうにする叶先生の表情が好きだった。
もちろん、日下君が呼んでいるから他の生徒も呼んでいた…
けど日下君はそれをやめさせていた。
自分だけが呼んでいいんだ…と…
叶先生も、そう思っていたのかもしれない。
日下君が"叶先生"と呼ぶ度に、傷付いたような…そんな顔をしていた。
叶先生は気付いていただろうか…自分がしていた表情に…
[…っ…っそんな事してる暇あんならさっさと思い出せクソガキ!!]
〔いっ…たぁ…なんで殴るのさ!!俺怪我人だよ!?〕
[うるせぇ!]
途端、病室から怒鳴り声が聞こえた。
驚いて先生を見ると、ニヤリと笑っている…
人差し指を口元に当てて、慎重に扉へ近付いている。
まさか…盗み聞くつもりなんじゃ…
止めようとしたが、手招きされ…俺も好奇心には勝てなかった…
〔叶先生…?〕
[……お前が目を覚まして良かった…]
〔……うん。〕
[苦しくなったらいつでも周りを頼れ…耐えてる必要なんてねぇから…]
〔うん。〕
優しい雰囲気に包まれる二人…
少し恥ずかしい……そう思いながら俯くと、先生が立ち上がり扉を勢い良く開け放った。
『さて、と…もう入っていいか〜?』
「ちょっ、先生…!」
俺達が入るのと同時に、叶先生は素早く椅子に座り直した。
日下君はほんのり顔が赤い…俺も人の事言えないんだけど…
そんな事を思いながら居ると、先生は死んだ魚の様な目をして椅子に座った。
『熱でもあるのか?』
〔ち、違うよ!暑いだけ!!〕
『ほー、そうかそうかー。』
「先生…」
『…お前ら、これからどうすんだ?』
〔これから…って?〕
『あー…』
先生の顔を見つめながら、狼狽える日下君。
対する先生は、腕を組みながら悩んでいる…
今叶先生は、俺達の所に居て…俺は日下君の所にいる…
つまり、同棲している事を話すか否か。
離れ離れで生活する選択肢もある…
〔え?なになに?〕
[そうだな、いずれ分かるし……俺とお前は一緒に住んでた。]
〔…え…えっ!?〕
[うるせぇな…黙って聞けねぇのか。]
〔え、だって…だって!えええ?!〕
[…チッ…]
驚いて大声を上げた日下君、叶先生は何だか難しい顔をしている…
言ってしまって良かったのだろうか。
なんだか俺まで悩んでしまう…
〔ゆ、勇間も真羅先生も知ってたの!?〕
『当たり前だろ…』
「ま、まぁ…ね。」
〔えぇぇえええっ!!〕
[話が進まねぇだろ!!黙れ!]
〔うぅ……これで付き合ってないとか、マジで俺ら何なの…〕
頭を抱える日下君を、何となく哀れんでしまう…
まぁ…確かに好き同士なのに、付き合わない理由が分からない。
叶先生は、まだ…日下君の道を自分が重荷になって居ると思ってるのだろうか。
[で、だ……お前は俺の存在自体を、今さっきまで忘れてた。]
〔う、うん。〕
[だから俺は……っ…]
『………叶は、お前から離れた。自分が居ない方が、日下は幸せだからってな。』
やっぱり…
叶先生は、自分の思いを打ち明けられた事に対し先生を睨む。
そんな事…無いのに…
〔なにそれ、そんなの勝手に決めんなよ…幸せか幸せじゃないか、とか…俺が決める事だろ?〕
『ほーら、言われてやんのー。』
「もー、先生!」
[テメェ…っ…]
また死んだ目で茶化す先生の肩を、軽く叩く。
「なんでそんなこと言うんですか!」
『だって…俺と勇間の時間…』
「まだ言ってる……」
ヒソヒソと話し、少し呆れる…
二人は真剣に話してると言うのに。
日下君に関しては、怒っているのか叶先生を睨んでいる…
〔戻って来るよね?〕
[…は?]
〔戻って来てよ、ちゃんと向き合わせてよ。〕
[……。]
日下君は叶先生手を握り、強い眼差しを向けている。
やっぱり直接言うんだね…日下君は凄い。
俺だったら勝手に悩んで…勝手に決め付けてる…
[はぁ……]
〔溜息!?〕
[…向き合うよ、ちゃんと。お前が苦しんだ分…いやそれ以上に。]
嬉しそうな二人が、微笑ましくて…眩しい。
俺は…二人のこの顔を、ずっと見ていたい。
何があっても…ずっと…
〔叶先生、これからも宜しくね。〕
[……おう。]
"叶先生"そう呼ばれ、一体どんな気持ちだろうか…
それでも嬉しそうな叶先生の表情を見たら、何だか良くなってきた。
記憶は戻っていない…けど、二人が元の関係に戻るのは早いかもしれない。
けど、なぜかずっと続く気がした…
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