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真羅 ~side~
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勇間はまだ気付いていない。
自分が今どんな顔をしているのか…
「そろそろ焼けるので、席に戻って下さいね。」
『ほーい。』
笑顔なのは良い事だ…けれど、その笑顔はどこか引き攣っている。
自分でも気付かぬ内に緊張しているんだ…
本当に大丈夫なのかと言う心配と、このまま一人にしても良いのかと言う不安が…俺の中で葛藤する。
勇間が決めた事は尊重してやりたい…けど…
席に戻った俺の肩に、叶が腕を乗せて来た。
[おいおいおい、なんっっつー顔してやがんだ。]
『お前酔い過ぎ…水飲んだのかよ…』
[飲んだ飲んだ。]
『はぁ…』
[んで、その顔!]
『は?』
[不安ですって丸分かりじゃねぇか。倉沢の決めた事だ、お前はドンッと構えてりゃ良いんだよ。]
『………。』
[何を不安に思ってんのか知らねぇけどよ、お前が思ってるより…アイツは強くなってると思うぞ。]
『そう、だな…』
偶に叶は的確な言葉をぶつけてくれる…
それに何度助けられた事か…そんな事を思いながら、小さく笑みを零す。
[何笑ってんだよ。]
『うるせーぞ酔っ払い。』
[俺はまだ酔ってねぇ!]
『酔ってんだろ!』
〔ちょっとちょっと〜!酔っ払いの二人、喧嘩するなら餃子あげないからな!〕
「そうですよ、俺達から見たら二人共酔っ払いなんですから。」
焼けた餃子の皿を運ぶ日下君と勇間が、俺達の目の前に並んだ。
いい匂いだ…
[お、美味そ〜。]
「日下君、ご飯よそうけど…沢山食べる?」
〔食べる食べる!〕
『俺ももう食べようかな、絶対米進むやつだし。』
「ふふっ、じゃあ皆の分持っていきますね。」
皆でテーブルを囲み、それぞれが作った餃子に笑いながら…
幸せな時間を感じる…
勇間の表情も、少し和らいでいる。
大勢で食べるご飯はどんなに美味しいか…何度でも思い出して欲しい。
きっとこの家に居る時には、味わえてなかっただろうから…
『寝たな。』
「寝ちゃいましたね…」
〔叶先生〜…風邪引いちゃうよ〜………駄目だ、全っ然起きない。〕
「ベット準備して来ますね。」
『ん、俺も手伝うよ。』
後ろを付いて行き、入ったのは…多分両親の寝室だった場所。
勇間は素知らぬ顔で電気を点け、新しく買い直したシーツ達を取り出していく…
『…無理してないか?』
「え…?」
思っても居なかった質問だったのか、動きを止めて俺を見つめ返す。
少しだけ目が見開かれ、何を言おうか迷っている様で…小さく口をパクパクと動かしている。
『…俺のせいか?あの時、お前に切らせた…』
「それは!…違い、ます………確かに、動揺…と言うか…その、驚いちゃったけど…でも…」
『………。』
「……本当は…不安、なんです……今は皆が居てくれるけど、明日からは一人で…」
小さく震える勇間…
ゆっくりと近付き、抱き締める。
「皆が心配してくれてる……だから裏切らない様にしなきゃって思って、余計に…」
『あんま考え込むな、確かに皆心配してる…けど、それ以上に応援してるよ。』
「はい…」
『今日の事を何度も思い出して、それがお前を繋ぎ止めてくれるなら…それだけでも俺達は来て良かったと思うよ。』
「………。」
『大丈夫、辛かったらいつでも帰っておいで…』
「はい…っ…」
この家の雰囲気は…きっと勇間を飲み込んでいく。
俺の手の中で消えそうに震えるコイツは、きっと負けてしまう。
守らなきゃならない存在だ…
けれど、いつまでもそこから逃しているのも駄目で…
不安なのは俺も一緒なんだよ、勇間…
明日からは一人…
俺も一人…
離れるのは、嫌だ…
『勇間…』
「?」
『俺達は…』
「はい…?」
『いや、何でもないよ。』
大丈夫だよな…
ベットの準備が終わり、リビングへと戻ると…
そこは大変なことになっていた。
[俺はっ…お前に…]
〔うんうん、分かった…分かったよ叶先生、だから泣き止もう?ね!?〕
『こ、れは…』
「一体…」
叶が日下君に抱き着いて泣いている…
見ていない内に、一体何が…?
日下君は宥めながらも、俺達に助けてと言う目を向けた。
『叶、落ち着け…な?』
[真羅…俺は、何も出来ない男なんだ…うぅ…っ…]
思ったよりも重症だった。
『そんな事ねぇよ…お前に何度も助けられてるぞ、俺は。』
[けどよ…龍には何も出来やしねぇ…ウダウダ回りくどい事しか考えられねぇ奴なんだ、そんなん男とは言えねぇべ…]
『………。』
「叶先生…」
〔……もー、急に泣き始めるし弱音吐くし…叶先生らしくないよ。〕
[………。]
〔でもまぁ、嫌いじゃないし…良いんだけど、それ…俺以外に見せるのはちょ〜っと、ねぇ?〕
ニコニコと笑顔を浮かべながらも、目が笑ってない…
日下君って以外と…いや、明らかに独占欲強いよなぁ。
遠巻きに見ていると、オロオロと勇間が近寄って来た。
「あの、あれ…だ、大丈夫ですかね?」
『んー…大丈夫だろ。』
「えっ…いや、でも日下君明らかに怒って…」
『怒ってるっていうか…あれはどう見ても、喜んでるっしょ。』
「へ?」
『何か思い出したりして?』
確信は無いけれど、何となくそう思った。
日下君の目が…前の感じと似ている、と言うか…
〔んじゃ、取り敢えず叶先生寝かしつけて来る。〕
「あっ、う、うん!」
〔片付け、手伝えなくてごめんね?〕
「ううん!大丈夫!」
[…しい…]
〔ん?〕
[俺の事…呼んでほしい…]
〔…叶先生?〕
[違うぅ…そうじゃ無いぃ…]
〔もー、分かったから…取り敢えず上行こ?〕
[んぅう〜…]
ズルズルと引き摺る様に、二人はリビングから出て行った。
なんだかんだ上手く行きそうで良かったな…何て、少し安心した。
「何か…叶先生って可愛いですね…」
『…何だ?浮気か?』
「いっ!いえいえいえ!違くて!」
『ふっ…冗談だよ。』
「…真羅さんは、格好良い…です…」
『………。』
今度は俺が固まる番だった。
愛おしさが爆発しそうだ…
『〜〜っ……たく、お前は…』
思わず額を抑えてその場に座り込んだ…
少し焦りながら近付いて来た勇間の手を、そっと掴み抱き締める。
何度も抱き締めても足りないな…
『一緒に頑張ろうな、一人じゃないから。』
「はい…!」
『勇間は、ちゃんと強いよ。』
「…真羅先生も、です。」
『……そうだな。』
お互いが、ちゃんと前に進む為に…
一度離れる…
嫌だけれど…辛いけれど…いつかはしなければならない選択だった。
逃げていたのは…俺の方だ。
『勇間、これは……』
捨てるゴミを集め、勇間に聞こうと顔を上げたが…リビングに飾られた写真立てを手に持ったまま…動かないでいた。
ゆっくりと近付き、覗き込むと…
そこには三人仲良く笑っている写真があった。
勇間がまだ幼く、ご両親も柔らかい表情をしていた…
それが今、バラバラになって…許されない事にまで発展してしまった。
嗚呼…そう言えばどうなったのか、すっかり忘れていたな…
一人になるし、ついでに見に行くか。
いや、下手に動いて見つかるのも面倒だし…
「先生?どうかしました?」
『…いや、何でもないよ。』
「そうですか?もし眠かったら先に…」
『大丈夫、それよりこれ終わったら一緒にお風呂入ろうか。』
「えっ!?」
『滅多にできない事を、ここでするのも良いだろ?』
「う…そ、れは…」
『駄目か?』
「か、考えときます……」
顔を赤くしたまま、作業を開始した勇間を横目に…俺も作業を再開した。
取り敢えず、外からでも見ておこうか。
脱出されてるかもしれないし…あの怪我で遠くまで行けたとしてもたかが知れてる。
同じ場所か違う場所か…どちらにせよ閉じ込め……
いや、いっその事海から突き落とすのも有りか?
確実に消せる方法は後者だが、あまり目立つ事はしたくない。
〔は〜、かなちゃんやっと寝てくれた〜…って、真羅先生顔怖いけど…どしたの?〕
『いや別に…ってか、今お前…』
〔ん?あぁ、上でずっと強請られちゃって…残念ながら記憶は戻ってないよ。〕
あっけらかんと答えた日下君は、どこか懐かしむような表情でそう言い放った。
『そうか…』
〔でもまぁ、良い響きだよね…かなちゃん…って。〕
『…そうだな。』
〔これからは叶先生じゃなくて、かなちゃんって呼んであげたい。あんな顔見れるなら得でしょ?〕
『どんな顔なのかは知らないけど、お前がそうしたいならしてやれよ…焦らなくても、アイツはもうお前の恋人なんだからよ。』
〔あははっ……うん、そうだね。でも…〕
『ん?』
〔今の言葉、そっくりそのまま真羅先生に返すよ。〕
ドキリと胸が跳ねた。
日下君も侮れないな…叶に似てきた。
『そうだな…』
〔ま、俺が言わなくても勇間が言ってくれてたんじゃない?〕
『………。』
〔俺よりも真羅先生の事知ってるし、人の事良く見てるじゃん。〕
『あぁ。』
〔それに、そんな風に勇間を変えたのは…真羅先生でしょ?〕
『それもそうだな。』
自嘲気味に笑みを零すと、何だか満足そうな表情で勇間の所へと向かって行った。
自分より一周り程の年下なのに…あんな的確な事を言えるようになった…
子供の成長って早いな…
俺は…まだまだだ。
何も変われていない…
勇間にはあんな風に言ったものの、自分が一番弱い…
一人になるのが怖くて…
いつまでも過去から逃げて…
『ふぅ……』
勇間達に一言告げて、外へと出る。
胸ポケットからタバコを取り出し、火を着けた。
昔は苦手だったこの苦さも…
着けることも出来なかったこのライターも…
全て"あの人"から教わった…
俺を救ってくれた大切な人。
俺もそろそろ、自分の過去と踏ん切りを付けないとな…
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