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「いや、ちょっと」
「先輩……あーいうのは、はっきり言っていいと思います。優しくする必要ないですよ」
「……仕事なんだから、怒鳴るわけにもいかないだろ。あと手、離せよ」
桜田に肩を抱かれてるなんて、亮雅さんに見られたくない。
先輩なのに見本にもなれやしないで、なにやってんだ俺……
「先輩ってほんと……可愛いですね」
「いい加減にっ……」
「桜田」
「!」
バックへ戻ってきた亮雅さんがこれでもかと桜田を睨みつける。
やばい……
なんとか、言い分を。
「なんでしょうか? 松本主任。あ、椎名先輩は少しお休みください。 "お客様"に触られて最悪でしょうし」
「ッ!」
いいながら腰をなでられて一歩後ずさる。
桜田は終始笑顔のままだ。
まるで、亮雅さんを挑発するような顔をして。
「……お前は梅の間に行け。会議中だから、早見の指示があるまで入るな」
「承知しました。では先輩、また後で」
わざとやっているのか、桜田は軽く手を振るとエレベーターで降りていった。
「……」
「チッ」
「ッ! す、すいません! 俺がっ……」
「なんでお前が謝るんだよ。さっきはすぐに行ってやれなくて悪かった、大丈夫か?」
そっと抱きしめられて泣きそうになる。
自分の不甲斐なさに。
「大丈夫、です」
「だからお前を宴会ヘルプには呼びたくないんだけどな。そういうわけにもいかねえし」
「……ごめんなさい」
「……」
はっきり言えない俺が悪い。
仕事だと思うと対応に困ってしまう。
最悪だ、本当に。
「なんか犬みたいだな。被害者は優斗なんだからよ、"オッサン死ね"ぐらい言っていいんだぞ」
コクリと頷けば、亮雅さんがそっと微笑んだ気がした。
「あー、可愛い可愛い。なーんか甘やかしたくなるよなぁ、お前」
「甘やかさなくていいです。こんな俺」
「おい、人の大事なもんを貶すなよ。……怖かったんだろ」
「っ! ……別に、怖くは」
「俺の前では隠すなって」
「…………ちょっとは」
「はぁ。だろうな、執着しそうな客じゃねえからまだよかった。連絡先でも聞きやがったら出禁だ」
「……」
額を重ねるだけで心臓が騒がしくなる。
端正な顔立ちが目の先にあって、もうわけが分からなくなってきた。
赤い顔を隠し、とっさに目を伏せる。
「男だって怖えもんは怖えよ。優斗が悪いんじゃない、な?」
「……はい」
「かーわい」
「ッ、本当にそういうの……やめ」
「松本さーん、うち終わっ……あれ?」
至近距離で向かい合う俺たちに唖然とする早見さん。
あ、終わった。俺の人生。
「あ〜……ごっめーん、取り込み中だったぁ?」
「取り込み中って、さすがの俺でも仕事中にこんな場所でキスするかよ。早見、ここんとこの宴会出席名簿よこせ」
「名簿? どうしたの」
「スタッフに手出した客がいんだよ。厳重注意しとかねえと繰り返すだろ」
「うっわ、またそういうのぉ? だから酒飲みは嫌いなのよー」
「お前も大概飲んでんだろ」
「私は要領を弁えてるから! てかそれ私がやるわ、どこの席よ?」
亮雅さんに渡した紙を奪いとり名簿を確認する早見さんは、一部の社員から「姐さん」と呼ばれているらしい。
陸上に柔道にバスケと、培ってきた体力がバケモノ並みだというのが由来だとか。
「セクハラとパワハラは私の担当よ。相手が松本や課長であろうと、うちの社員に手出したらしばき回すからね?」
「俺を候補に入れんな、優斗は事務所に戻っていいぞ。紅茶でも淹れて休んでろ」
「……はい、ありがとうございます」
なんで、こんなに。
事務所へ戻るとデスクに死んだように倒れた。
あぁぁぁ……
また甘えてしまうじゃないかぁ……
亮雅さんの優しさに、あの気前のよさ。
気持ちのいい甘え方なんて分からないのに。
「これ以上好きに……なりたくない」
「しっいなー。陸くん元気してるー?」
「…………なんだ浅木か」
「いやいやいや! Why、おれって空気なの? 椎名の周りにただ存在してる空気なの!?」
「空気ってことは必要不可欠じゃん。よかったな、おめでとう」
「絶対おれのこと好きだろ、そうだろ。知ってるぞ? だって椎名だもん、絶対そう」
幸せな頭だな……
浅木みたいなタイプにはこれくらいの方が割に合うと最近気づいた。
逆にいえば、こんなにも自然体でいれる同級生は浅木が初めてだ。
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