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亮雅さんと陸が煮込みハンバーグを作っている間、俺は生春巻きを作っていた。
ライスペーパーに鶏もも肉やパクチーを乗せていく。
手が汚れないし食べやすい。
台の上で巻き終えると、ジッと視線を感じた。
「なんだー? 陸」
「まきまき、おいしそ」
「まだダメだよ。つまみ食いになるから」
「あじみ……」
「だーめ。代わりにハムあげるよ」
「たべる!」
ハムの飼い主がハムを食べるって……
なんだこれ。ゲシュタルト崩壊しそうだ。
「んふふ〜ハム〜」
「陸ー、ニンジンはまだか?」
「にんじんどれぇ?」
「ぷふっ」
頼みごとをされてこっちに来ていたらしい。
絶対忘れていたな。
下唇を突き出した陸は箱の中からニンジンを探している。
「陸、こっちにあるよ」
「にんじん?」
「うん」
「わーいっ」
素直で不器用なところが可愛くて、ついつい手を貸してしまいたくなる。
子どもが苦手だと思っていたのにすっかり親バカだ。
およそ30分後に一通りの料理が完成し、3人で手を合わせて昼食をとった。
一家団欒を味わってみたかった俺には十分すぎる時間だった。
陸が楽しみにしていた釣り竿を持って階段を降りると、数人の観光客がすでに場所を確保していた。
「おさかな〜」
「ここら辺でいいだろ。さっき教えた通り、針を投げるときはこう持って、背後に気をつけるんだぞ」
「あいっ」
亮雅さんに支えられながら針を投げ、上手くいくと嬉々とした声を上げる。
「ぴょんてとんだ!」
「ああ、ちょうどいい場所に落ちたな」
「たのし〜!」
「まだ投げただけだろう?」
釣りの楽しさは俺も最近知った。
初心者でも釣れることが嬉しくて、ついはしゃいでしまったくらいだ。
「ゆしゃんもおさかなっ」
「うん、釣れるといいな」
笑みがこぼれて心が穏やかになる。
自然や家族の力は凄い。
億劫だった外出も今では少しずつ楽しみになっていて、意識しなくとも笑顔でいられる。
「楽しそうでよかったよ」
「え?」
「お前さ、今可愛い顔してんぞ」
「!」
さりげなく耳許で囁かれ、ドキッと心臓が跳ね上がった。
そして何事もなかったかのように陸と話し始める亮雅さんには混乱させられる。
「っ……」
やばい、顔が熱い。
いつになったら俺はこの状況に慣れるんだろう。
恥ずかし、すぎる……
「このまえね、マーちゃんと闘ったの」
「バスケか?」
「うん! マーちゃんつよかった、でも陸もぶわァって走ってマーちゃんやっつけた!」
「はは、誠はいいライバルになりそうだな」
「ライバルっ」
犬がしっぽを振るように陸が足を揺らしたとき、陸の釣り糸が川底に向かって引っ張られた。
「あ、かかってる」
「おさかなきた!!」
「重いから気をつけろよ」
陸の手に自分の手を重ねた亮雅さんが滑らかに釣り竿を引いていく。
勢いに任せず様子を見ながら引き上げた瞬間、小柄な魚が顔を出した。
「つれたぁっ」
「早かったなぁ、初釣りだ」
瞳を輝かせて喜ぶ陸の姿に季節はずれの春風を感じた。
人がこんなにもキラキラとした顔をするのは初めて見た。
胸の奥が締めつけられる感覚がして、思わず笑ってしまう。
「みて、おさかな!」
「凄いなぁ、大物だ」
「やったぁ〜」
持ってきていたバケツに魚を移しても、陸は嬉しそうに眺めている。
純真無垢な反応をされて嬉しくない人はいないだろう。
無意識に微笑んでいると、頬に触れられて肩が跳ねた。
「あ、あの」
「やっぱり優斗は笑った顔が一番可愛いな。一生見ていたいくらいだ」
「っ、大げさですよ……」
「いーや、大げさじゃない。ありがとな」
瞬きをした途端に唇が重なり、すぐに離れていった。
陸が背中を向けているからといって、あまりに突然のキスに顔が沸騰する。
「わ、や……えぁ……」
「うし、陸もう1回やるぞ。今日はよく泳いでるかもな」
「するー!」
…………なんなんだよ、本当に。
付き合い始めて1年以上が経過してもなお、俺は恋人に振り回されている。
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