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「おお、綺麗な景色だなぁ」
「……っ」
不安を抱えながら展望ゾーンへと足を踏み入れてみれば、目の前には見たこともない街の景色が広がっていた。
一戸建てではなくビルの集合体だが、不規則に並んだ建物が一面を覆い尽くしている。
職場から見る光景とは打って変わって、作り物のようだった。
「こんなの……初めて見ました」
「な、怖くないだろ? 東京も捨てたもんじゃねえよ」
「……はい、とっても綺麗です」
「夜に来ればもっと綺麗だ。次は陸も連れてくるか」
握っていた手が汗ばんでくる。
地元から出てきて、なんの楽しみもなかったのに。
今の俺は感動している。
不思議なくらいに。
「お、ガラス張りの床コースなんてあるらしいぞ」
「!? なな、なんですかそれ」
「そのまんまだろ。こないだ陸が大泣きしたやつじゃねえ?」
「俊太が招待してくれたやつ……ですよね。ていうかっ、あれとは比べものにならない高さですよ!?」
「つっても、長さだってせいぜい10メートルくらいだろ」
「それでも!」
スリルのあることが好きらしい亮雅さんは「大丈夫だって」と笑いながら歩き始める。
その向かう先には看板があり、『足下が丸見え!?ガラスの床廊下』と書かれていて叫びを上げそうになった。
「ちょっ……」
「ママぁ! ボクあれ行きたい! ぜったい怖くないもん!」
「まぁ、カズくん強いのね。でも本当に怖くないと思う? すっごく高いのに」
「怖くないよ! だってボク、つよいもん!」
「…………」
そりゃあ俺だって、別に弱いわけじゃない。
小学生くらいの子どもが堂々と進んでいく姿を見ていると、怖気付いている自分が恥ずかしくなってくる。
少し早足に亮雅さんを追いかけ、覚悟を決めた。
「どうしても無理なら待ってていいんだぞ、優斗。廊下の先も足場が透明だ」
「ぜ……全っ然怖くないですから。亮雅さんがふざけて落ちないように見ておかないと心配ですしっ」
「……」
何も言わずにジッと見下ろされてヒヤヒヤした。
子どもに負けたくないという変なプライドが働いたなんて言えるわけない。
「わー、すっげえな。床がピカピカだ」
「……うわ」
ほんの10mほどの廊下だが、その真下は都会の街並みが広がっている。
大人でも足がすくむほど磨かれた床のおかげで恐怖心は倍増した。
「わぁぁ! みてママ! ボクの学校だっ」
「あら、ほんとね。カズくん、あんまり走らないの」
無知は時に強い。
バンジージャンプもしないのに、まるでその気分にさせられるのは余計な知識がついてしまったせいだろう。
だが、一番驚いたのは平然とガラスの床を歩き始める亮雅さんだ。
床、壁、天井のどれもが透けていて普通の人間なら死ぬほど怖いはずなのに。
「ん? どうした優斗」
「! り、亮雅さん……よくそんな平気な顔で歩けますね」
「あー、そうだな。子どもの頃はバンジーの世界記録保持者に憧れてた」
「聞いてないんですけど、その話っ」
「今作ったから聞いてないのも当然だ」
「なんなんですか! 過去を改変しないでください!」
ほら、と手を差し出されたが完全に脚が固まって動かない。
さらに真下を見てしまうと、もう脳内は大混乱だった。
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