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モモが風呂から上がるとリビングであろう部屋の奥から小気味好い音が聞こえて来た。
興味本位で覗けば、そこにはキッチンに向かう麻倉の姿があった。
(……いい匂い)
ぽけっとその場に立ち止まっていれば麻倉と目が合った。
麻倉は手を止め、もたつきながらも真っ直ぐこちらに駆け寄って来た。
「さっきは本当にごめん!!俺寝起き悪くて…あー、服はサイズ合ってそうだね、良かった」
「そ、れは…もういい気にしてねぇ……この服、なんでサイズ…」
気にしてない訳が無いのだが。
これ以上掘り返されたく無かったモモは話題を移す。
元々着ていた服の代わりに置かれていたユルい部屋着であろう物はモモの体型に合っていた。
だが、それはおかしいのだ。
麻倉とモモの体型は大きく異なる。
麻倉に子供がいないのは察しが付くとして、兄弟等がいたとしても少なからずこの家には、他に人の気配を感じなかった。
(……アブない趣味持ち…?)
「目線が痛い……それは昨日モモが寝た後に買って来ただけだから。変な誤解しないでね……」
モモは目を瞬かせた。
何故そこまでして貰えるのだろう、と。
店に来た客に貢ぎ物を送られた事は数あれど、麻倉からのこれは真意が見えないのだ。
(……なんか、むずむずする)
得体の知れない人間からの贈り物に得体の知れないむず痒さを覚え、咄嗟に目を逸らす。
そんなモモの内心など露知らず、麻倉の話は続く。
「そうだ、名前!俺の名前は麻倉智樹。兄弟多いから智樹呼びが慣れてるかな。君の名前も教えてくれると助かる」
「……名前」
名前、と言われて真っ先に出て来るのは『モモ』、店での名前だ。
寧ろ、それ以外――本名で呼ばれた事が遥か昔の出来事過ぎてモモは視線を彷徨わせた。
その仕草に麻倉は青ざめていく。
「まさか、憶えて無かったり、する……?」
だが、その不安はモモの次の言葉に打ち消される。
「……あおい」
まず思い出したのは自身に優しく呼び掛ける兄の姿。
子供に関心の無かった父親の代わりに何時も面倒を見てくれた優しい優しいモモの兄。
“蒼宙、俺が守ってやっから”
兄は、父親の失踪の件で別々の場所へ連れて行かれる際、脅えて動けなくなっていたモモを最後まで逃がそうと抵抗を続け、意識を失うまで暴行を受けていた。
その光景がフラッシュバックしたモモは酷く顔を歪ませた。
更に、次に思い出したのが借金取り達の声だったのも重なり、気分も悪くなるものだろう。
“百原さーん、居るのは分かってンだよ”
「……百原…蒼宙」
「ッ――――!」
気付いたら、抱き締められていた。
その行動にやはりモモは目を瞬かせる事しか出来なかった。
それでも幾分か気分が楽になったのだから不思議なものだ。
「ごめん、嫌な事思い出させた、かもしれん……蒼宙って呼んでもいい?」
「ん…好きにしろ」
久しく呼ばれなかった自身の名前を呼ばれ、それに心地良さの様なものを感じながらモモは顔をうずめた。
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