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カニ
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鎌やんが家に来た。
モリクミや吉野も後から来るらしい。
「鎌田先輩が一番乗りって珍しい」
「そうー?」
鎌やんは時間にルーズやけん約束の時間に今まで来たことなんかねー。
それを俺らは分かっているので予定の時間よりも30分~1時間位幅を持たせて鎌やんにだけ伝えたりする。
これを俺らは「鎌田タイム」と呼んでる。
その鎌やんが珍しく「鎌田タイム」きっかりに現れたからモリクミや吉野が遅刻しているみたいになった。
「もー。二人共遅いなぁ。呼び出しておいてー」
「鎌やんが言うか.......」
「鎌田先輩がいつも遅いんですけどね。それで何か僕たちに用事があるんでしょう?」
「うぉ?」
松永が鎌やんにジュース出しながら質問した。
「松永君そういうところ勘がいいなぁ」
「なん?鎌やんなんかあるん?」
「うん。今度の舞台ねー僕ゲイの役なんだけど役作りうまくいかなくてねー。リアルにいるじゃーんって。二人から予備知識をねー」
「駄目ですよ。鎌田先輩、僕たち参考にならないと思います。吉野君の生態が参考になりますよ」
「そやな。吉野が一番ゲイっぽい。あれ参考にすればいい」
「あれ呼ばわりwww吉野君はねー、うーん。仕草とか口調とかそうなんだろうけど今回の舞台は分かりやすいゲイって役じゃないんだよねー」
鎌やんがバックから台本を出した。
松永に手渡す。
鎌やんの台本はペンでびっしり何か書かれていた。
舞台に対する気持ちは真面目っぽい。
松永がページをちゃっちゃかめくって読んだ。
「吉野君では参考になりませんね。これクローゼットなゲイの役なんですね」
「クローゼット?」
「ええ。オープンゲイの反対。ゲイであることを隠して生きている人のことをゲイの世界ではそう言うんですね。でもその言葉は僕嫌いなんですけどね」
「なんでー?」
「だってクローゼットって本当の自分を隠して押し入れに隠れているみたいだっていう暗喩から生まれた言葉だったと思います。自分がゲイだとカミングアウトした側からの視点です。まるで自分たちが優位みたいな思考から生まれた言葉。それは違う」
難しい会話が始まるな。
鎌やんと松永二人の会話はたまに入り込めなくなる。
俺は二人のやり取りを黙って聞いた。
「違うってー?」
「どんな生き方をしようとゲイはゲイなんです。その生き方にこっちのが優位だ下位だと個人の生き方にレッテルを貼るような言葉は違うと思います」
「えーじゃあ松永君と長野君の生き方は言い方悪いけど気にしないでねー。クローゼット側なんだよねー」
「そうカテゴライズされてしまうでしょうね。そういう視点からだと」
「不満?」
「いいえ。別にいいんじゃないでしょうか。興味ありませんし」
フフッと松永は笑う。
興味ない上に本当にどうでもよさそうに見えた。
「でもさー松永君と長野君は海外で結婚式したよねー?日本で法整備されてゲイに優しい社会だったら日本でも出来た可能性もあったからーゲイとして主張して行くこととかもっと生活しやすい社会にしたいとか考えないのー?わざわざ結婚式挙げるってことは心のどこかでそういうのに憧れあるんじゃないー?」
鎌やんが松永を攻撃し始めたな。
鎌やんは松永とこういう会話で闘うのが好きっぽい。
鎌やん楽しそうだな。役の話どこ行った?
「憧れはしませんよ。長野がそうしたいって言うからしただけです。大多数のゲイがそれを望むならみんな声高に主張しているはずです。勿論、息苦しい、もっとゲイがオープンな社会を望む方もいるでしょう。ですが彼らは甘受(かんじゅ)したんです」
「甘受ー?それでよしとしているってことー?」
「そうです。それに甘んじても問題ないから主張しないんです。生死に関わることもない、そしてそういう風に見られるのを毛嫌いしてる人だっている。それはメディアに出ているゲイのイメージを毛嫌いしているのもあるでしょう。一緒にされたくない、って言うですね」
「あー。そういうこと」
確かにあのテレビに出てる人たちと俺たち違うけんね。
オネェしゃべらんし。吉野はオネェだけど。
「ええ。ですが社会は変化します」
「どう変化してるのかなー?」
「欧米の流れを見ると同性婚やゲイの法整備が進んでいますがいずれその流れに日本もなって行くでしょう。先進国はその流れです。出生率の問題や宗教がどうしても関わって来る為繊細な問題をはらんでいますが、いずれそうなる。それは僕の予想でしかありませんが」
「松永君はそう見てるんだ?」
「はい。オープンゲイだと彼らが声高に主張して特定の政党や団体にすり寄る必要もないでしょう。ゲイに優しい政策を過去に打ち立てて同性愛問題などを全面に出して選挙を戦った時代もあったようですが、選挙でゲイ票の取り込みに失敗したどころか惨敗して政党の政策担当もゲイを切り捨てた。行き場を失くしたオープンゲイの人たちはどこに行ったんでしょうね。彼らのせいでさらに後退したと見ていい。時期尚早だったんです。彼らは仲間であるゲイたちから票も賛同すらも得られなかった。つまりそういうことです。そんなのどーでもいい、位の認識でしか日本のゲイになかったということです。海外みたいにゲイ団体が選挙の動向を握る力を持っていないし。そんなの考えればすぐに分かること。日本はそういう風土と民族じゃない。どちらも浅はかだったんですね」
鎌やんは松永が流暢(りゅうちょう)にしゃべるのをニヤニヤ見守りながら見ていた。
松永が一通りしゃべって溜息をした。
「僕たちはだから参考になりませんよ。だってこの役、ゲイであることを苦悩しながら隠しつつ生きている役じゃないですか。僕たち悩んでません」
きっぱり松永は言い切った。
俺もそうだ。
悩んでなんかいない。
こうなったことを後悔なんかしてない。
松永の横で頷く俺と松永を見比べて鎌やんが満足そうに笑う。
なーんか鎌やん俺たちおちょくって遊んでる時の顔しとるな。
鎌やん、役作りなんか関係なくて俺たちとの会話を楽しんでただけじゃないのか?
やり取りが終わった頃にモリクミと吉野が現れた。
「やーんっ!?あんたが先に来てるなんて珍しいぃいいい!?」
「遅いよー」
「あーんっ!!お前が言うなクソがっ!!」
モリクミが鎌やんの頭をはたいた。
「あーんっ!!御機嫌麗しゅううううう!!長野くーん、松永くーんっ!!」
「お前ぇえええ!!チャイム鳴らして断り入れてから部屋入って来いよ!!」
「当たり前のように家に出入りしてますよね........」
モリクミがいきなりドアバンッ!!って開けて入って来るからこいつら来る前とかイチャコラも警戒して出来んやないか。
「あーんっ!!今日はカニ持って来たのーっ!!モリクミ特製の愛情たっぷりのカニ鍋にしましょー」
「お前話聞けよ.....カニすげぇ。買ったん?」
「いいえー!!せしめて来ましたーっ!!」
せしめて来たってなんだよ.......
お前そんなでかいカニをどこで手に入れた。
「モリクミ海に潜ってくわえて持って来たんでしょ?」
「あー。その絵想像しやすいなぁ」
「クソがっ!!てめぇらボコボコにされてーのか?あ?」
吉野と鎌やんがモリクミにぶっとい腕でバックハンドブロー吹っ飛ばされていた。
「暴れないで下さい。カニの調理って僕もしたことないなぁ。.....モリクミ先輩したことあります?」
「なーい」
「ちょ........どうしよう。ネットで調べてみます」
松永がリビングの俺のPCでカニの調理方法を調べ始めた。
生きてはいないけど姿そのままのでかいカニ4匹がリビングに置かれたダンボールの中にいた。
「おー。丸ごとカニ食うのって久しぶりやなぁ」
「そうだね。でも調理するの自信ないなぁ。モリクミ先輩も手伝ってもらえます?」
「あーん!!もちろんですーっ!!松永くーんとキッチンに立つ日が来るなんてーっ!!」
モリクミも実は松永と同じく料理上手なのは分かっていたがなんかむかつくんだが。
「おいモリクミ。お前松永とキッチンに一緒に立ったとしても心は離れ離れで松永の姿は遠くの彼方だからな」
「やーんっ!?」
俺のエプロンを松永がモリクミに貸して「これ長野のですけど」「あーんやーんっ!!」と俺のエプロンを握り締めて匂いを嗅ごうとしているモリクミを攻撃しておいた。
お前本人の前で匂いをスーハーしてるのってどうよ。気持ち悪いわ。
俺もお前と同じところあるから人のこと言えんけど。
たまに松永の衣服とか松永の体スーハーしてるけどさ。
「カニ大きいねー」
鎌やんがカニを手に持って眺めていた。
「戸田と奈々子も呼んでいい?」
「あーんもちろんですーっ!!二人にも私たちの愛のキッチン風景を見てもらいたいーっ!!写メ撮って欲しいーっ!!」
「おい。そこには愛はないから安心しろ」
「いいよ。カニ調理するのに手間取りそうだからすぐ出来ないだろうし呼んで」
「分かった」
キッチンのモリクミが松永に「あーん、やーん」とかわめきながら手伝うのを牽制して戸田と奈々子も呼ぶ。
いつものメンバーと思ったら緒方と津島のおっさんまで現れた。
「おい。誰が呼んだ?」
こそっと松永に耳打ちする。
「うーん?誰だろう?モリクミ先輩?今さっき携帯で電話してた」
「あいつぅうううう!!」
「でもいいんじゃない?ほら、お土産たくさん持って来てもらったしモリクミ先輩の狙いそこだったかもね」
確かに緒方と津島のおっさんは金があるから高そうなワインとかカニがある、と聞いたのか高そうな食材をさらに持って来てくれた。
「すごいカニだなー。お呼ばれしたけどいいのかい?」
「あーんっ!!津島先輩ーっ!!ご無沙汰してますーっ!!そんなもー、そんなにおいしそうな物たくさん持って来てもらっちゃってー!!」
「いやー。モリクミちゃんから7名松永君の家にいて食事作ってるんですけどー食材が足りなくてーって電話来たから買って来ざるを得ないよ」
モリクミお前.......金持ってる二人に遠まわしに食材とうまいもん持って来いって催促したな。
いくら広めの俺たちの住むマンションでも津島のおっさんと緒方とモリクミ、吉野、鎌やん、戸田、奈々子と俺、松永だと部屋が狭く感じる。
「懐かしいなーこの感じ。津島先輩、園芸部の部室を思い出しますね」
「そうだなー。あの6畳に部員ぎゅうぎゅうで鍋囲んだなー」
津島のおっさんと緒方が懐かしむ。
「その頃に比べたらーん、あたしたちの頃は人いなかったんでー鍋配布も充分でしたー」
ほとんどお前が自分で作って食べてただろうが。
小食の鎌やんとお富さんと松永と児玉はお前みたいにモリモリ食ってなかった記憶があるぞ。
松永が折りたたみのテーブルや松永の部屋にあるクッションも出して全員が座れるように手配した。
また部屋のチャイムが鳴る。
「ごめんなさい、買い物してて遅れました」
「佐伯さんお久しぶりです、どうぞどうぞ」
佐伯さんも呼んでたんかーい!?
佐伯さんも紙袋に飲み物や食べ物を詰めて持って来ていた。
食卓の上にはカニ鍋とワインとキャビア(!?)やらフランスパンやハムとかチーズとか出来合いのチキンやらサラダやら松茸(!?)がごっちゃに並べられていた。
「いただきまーす。すごいことになってるね」
「ほんとだねwww奈々子ちゃん何飲む?」
「私ワインから行こうかなー」
「鎌田先輩は?」
「松永君がいつも飲んでるヨーグルトリキュール飲んでみたいー」
「じゃあ僕の好きな割り方でいいです?長野はビールでいいよね」
「おぅ」
「戸田君は何飲みます?」
「じゃあ俺もワインもらおうかな」
松永は全員の飲み物の準備をしていた。
モリクミがいつものように飯をよそったり皿に取り分けて全員に回して行く。
一人を除いてなんだけどな。
「おい!!僕のはっ!?」
「まだお前は分からないのっ!?まだ分からないって言うの!?あーんっ!!お前どこまでもバカでしょ!!果てしなくバカでしょ!?エンドレスバカぁ!?お前に食わせる飯は大学時代から無いって何度言ったら分かるのかしらーんっ!?カニの甲羅でもしゃぶってろ!!ブルァアアアア!!」
カニ味噌を取ったあとの甲羅をモリクミが吉野に投げつけていた。
「てめぇ.........」
「やーんっ!?松永くーん!!ゴキブリがっ!!でかいゴキブリがしゃべったのーっ!!」
「二人共もういいですから......ご飯食べて下さい」
飯を食い出したら大人しくなるのを知っているので早く二人に飯を食えと松永は言っていた。
松永は全員の飲み物を作ったり、松茸をベランダそばで七輪で炙ったりカボスしぼったりやらまだ料理の続きを続行していた。
今気付いたが俺たちの家いろんな道具あるな。
いつ七輪なんか買ってた?
おもてなし道具あり過ぎんだろ。
だからこいつらが来るんだっつーの。
「松永食べたいやつにやらせればいいけん。飯食べりー」
「作ってる内にお腹いっぱいになった」
「なんだそりゃwww」
焼いた松茸を皿に乗せて手に持って近寄って来た松永を引っ張って俺の胡坐の上に座らせる。
「ちょwwww」
「だってこうせんと松永ちょこまか働いて食べれんやん。お前ら食いたければ働け。自分で焼いたり飲み物作れ」
「そうだよー。松永君僕たちでするからいいよー」
「松永君も気を遣わなくていいよ。勝手にやるから」
鎌田と津島のおっさんが俺に同調する。
モリクミは携帯で俺たちの姿を写メに撮ってはぁはぁしていた。
片手で撮影片手で飯食いながらはぁはぁ出来るのはお前位だろう。器用過ぎんだろう。
どっちかにしろ。
土曜日ということもあってその日の飯と飲み会は長丁場だった。
自然と会話は昔話や想い出話になる。
もちろん今まで書いて来た内容なんかも語られたが俺と松永は文章に書いて反芻してた。
松永と俺は目を見合わせて笑う。
お前たちよりも俺たちは反芻して来た。
「あーん!?二人が目と目で何かをしゃべってるーっ!!長野くーんのいやらしい目が松永くーんをぉおおお!!」
「なんだそれは.......」
お前はどうしてもそっち方向に俺たちを持って行って見てたいみたいだな。
「この光景に見慣れているのかもしれないけどよく考えたらすごいな」
「戸田、なんが?」
「だって長野の膝に松永君座って飯食ってるんだよ。俺たち見慣れてるからそうでもないけどよく考えたらすごい絵だなって」
「二人羽織りみたいだよねーwww」
確かに「あれ取って」とか「これおいしかよ」と二人であーんしたりとか松永の箸持つ手を握って飯取ってそのまま俺の口とか松永の口に箸持っていくんだけどいいやん。これ俺は結構好き。
「そうですねwwww」
松永がニコっと笑う。
最近はこのメンバーなら俺たちのこと知り尽くしている感があるので松永が恥ずかしがることもない。
その内酔い潰れる人間が出て来た。
一人また一人とその場で突っ伏して行く。
「おいお前ら......なんでそうなんだよ。帰れよ」
「いいやん。楽しかったんじゃないの?」
松永が一人一人にタオルケットをかけて行く。
それが終わったら起こさないように少しずつ皿を片づけ始めた。
「俺も手伝うよ」
「長野も寝てていいよ」
「いやそんなに酔ってないけん」
こういう時松永は酔わないように酒をほとんど飲まないようにしてるのは気付いていたので俺も控えてた。片付け大変やけんね。
キッチンに皿を運ぶのとかコンロとか鍋を運ぶのを手伝う。
「こいつら毎回俺たちの家でつぶれてね?」
「大学時代を思い出すんじゃない?いつもこんな感じやったやん。部室とか僕の家とかでさ」
「そうやけどこいつらもうバリバリの大人やん」
「たまにはこういうのもいいんじゃない。僕も楽しい」
「津島のおっさん緒方さん佐伯さんまでつぶれとるんだが」
「いいんじゃないwww」
楽しそうに倒れているやつらを松永は見渡す。
騒々しい家やなぁ。
「アンキモーっ!!」
「え?」
「うぉ!?」
モリクミがでかい声で叫ぶ。
「今の寝言!?」
「アンキモってなんだ?あれか?食べ物のアンキモかっ!?」
「分かんない。ウフフ、アハ、アハハハハハハ!!」
「こいつどんな夢見てるん!?ゲラゲラゲラゲラ♪」
俺と松永は意外なモリクミの寝言に笑いが止まらなくなる。
「おい。松茸の残り貸して。口に当てたら寝ながら食べるんやないん?」
「ちょ何してるん!?」
俺がモリクミの口に松茸をグイグイ押しつけている姿を見て松永が笑いが止まらなくなった。
笑い声で全員が起き出す。
「あー。ごめん寝てた」
「いつの間にか意識失ってた」
「飲もうか」
「氷まだあったっけ?」
「ワインもう1本開けますねー......」
こいつら......まだ飲むんかい。
ゾンビみたいにノソノソ起き出してまた酒を注ぎ出したこいつらの姿を見て松永はさらに笑っていた。
本当に楽しそうで俺まで楽しくなった。
「お前らアル中かwwww」
でもまぁ、こいつらのおかげで今の俺と松永があるんやなぁって思う。
二人の幸せの為には必要やったんやろうなってね。
アル中みたいな連中やけど。
お前ら普段もそんなんじゃないよな?
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