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突然のこと(1)
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久しぶりやね。
俺らいろいろあってねー。別れたとかじゃないんやけどそれ書こうと思う。
春って忙しいな。
俺と松永がクッソ忙しい。
俺も松永も年明けてからしばらくして偉くなったんよね。
エラソーにしてるとかはいつものことで会社での立場とかがね。
俺はちぃとばかし偉くなって後輩も増えて松永もちぃと偉くなって新入社員のお世話なんかの担当になってたらしい。
「長野春から昇進なんやね。おめでと」
「おぅ」
「頑張っとったもんね」
「いつもの俺だせば当たり前」
「偉そうにwwww」
昇進試験と面談とかあったっちゃけど俺の上司のゴリラ藤沢の推薦もあってとんとん拍子やった。
イケメンってさー見た目で得してるとこあんなーと思う。
俺と同期入社の中で俺より仕事出来るやろう、ってやつが昇進せんで俺が昇進したりしとーけんね。
まー給料上がるし松永との生活のために金は必要やけん深くは考えんようにしようと思った。
「奈々子ちゃんと戸田君の結婚式明日やね。ちゃんと準備しとう?」
「しとるしとる」
戸田と奈々子の結婚式に行く準備を二人でしてたんやけど週末都内の式場で結婚する。
戸田と奈々子の結婚式の準備は俺も結構関わった。
松永とは戸田も奈々子も大学時代からの友達やけど同じ大学やないけん席次で悩んでたんよね。
二次会からでいいってあいつらも松永も遠慮したんやけど戸田と奈々子は「どうしても見てもらいたい」って言ってさ。
松永の他にモリクミ、鎌やん、吉野、奥田、佐伯さんを呼ぶ予定(お富さんは海外いるけん出席出来んかった。面識ある津島のおっさんも緒方もちょうど出張で無理やて)やったんよね。
俺は戸田と奈々子と同じ大学でサークルも同じでバイト先も同じで、っていうのがあってサークル仲間と大学の仲間の友人席に座る予定なんやけど松永と席が離れてしまう。
松永たちは個人的な戸田と奈々子の友達ってことで学校時代とか職場とか関係ない席で連中固めたんやけど戸田と奈々子がかなり気にしとった。
「学校時代と会社の人たちで席作るから松永君やモリクミさんたちだけのテーブルって端の方で寂しくなっちゃうね?」
「いいんじゃね?奈々子気にしすぎやろ。モリクミたちなら大丈夫やろ」
「そうかー?人数少ないテーブルになってしまうよ。長野のいるテーブル松永君たちのテーブルの近くにしようか」
「いいって。逆にあいつらの近くにおったらモリクミが暴走した時俺の立場がやべぇ。あいつらのことどー説明するん?他大学でどうやって知り合ったん?って。俺と松永が付き合ってるのはばれんかもやけど酔ったモリクミが余計なことしゃべりかねん」
「それもそうか」
そんな感じで戸田と奈々子と一緒に招待客の席次を俺も一緒に考えながら手伝ったんよね。
結婚式当日。
「じゃあ長野後でね」
「おぅ」
俺は大学時代のサークルの仲間と一緒に式場に行く約束あったけん家で松永と別れた。
松永はモリクミたちと合流して一緒に行った。
式場に着くと大学時代の懐かしい顔やサークルの連中がいた。
お互いに懐かしいなって挨拶して近況報告して席に着く。
しばらくしてモリクミたちが現れた。
お?モリクミ結構まともな格好して現れたな。
全員まともな格好して静かに入って来たんやけどモリクミと俺の目が合った瞬間。
「目と目が合う~っ!!フゴフゴっ!!」
モリクミが歌いだして俺の座っている席に突進しようとしたのを鎌やんと吉野が口と体押さえこんで止めてた。
「おい。今誰か歌うの聞こえなかった?」
「気のせいじゃね?」
鎌やんと吉野と奥田が必死になってモリクミを静かに式場の外に引きずってた。
...........モリクミてめぇ。
俺らの仲ばれるようなことやややこしい行動するなよ?ってあんだけ1週間前から言っとったのにお前何しようとしてるーん!?
あいつ静かにしとけよ。
誰にも注目されないように素早くモリクミ回収してひきずっていく連中の中で松永と目が合う。
松永がニコッと笑って「大丈夫」って言葉に出さず口の動きで俺に伝えてた。
それ見て俺もうなずく。
モリクミ対策は万全なんやろーな。って余計な心配事あいつ増やすんじゃねーよ。
そこまで気にせんでいいんやろーけど俺もあそこの席のいつものあいつらも知り合いじゃないっていうことにしようってなったんよね。説明がめんどくなるし俺も大学時代の友達と久しぶりの再会になるやろうってことやったけんそうなったんやけど。
モリクミたちが戻って来た。
松永と鎌やんになんか言われたんやろう。
モリクミ静かに席に座っとった。
んが。しばらくするといつものモリクミやな、と見てて分かった。
いつもの「あーん!!」「やーん!!」とか言いながら松永困らせるようなこと言いよるんやろなーって分かる。隣の松永がモリクミに困惑している顔向けてた。
てめぇモリクミ。
松永に困るようなこと言ってんじゃねー!!声聞こえんけどお前の態度と口の動きでなんとなく分かんだよーっ!!
結婚式はそうやね、ドラマみたいに涙とかありつついい式やったよ。
二次会の会場に移動してモリクミたちとは離れて声もかけ合わんでおったんやけどその内やつらの姿が見えんくなったんよ。
ちょっと気になったんやけど人結構おったし外の空気でも吸ってるんやろーねと思ったけどそうやなかった。
「長野君ちょっといい?」
姿が見えんかった鎌やんが寄って来た。
「なん?」
俺大学の友達としゃべりよったけん輪から離れて鎌やんに人のいない喫煙場所に連れて行かれた。
鎌やんの表情がこわばっとる。
なんか胸騒ぎがした。
「落ち着いて聞いてねー?いいー?」
「おぅ。どうした?松永たちは?」
「うん。病院」
「は?」
「松永君を病院に連れてってるー」
「どういうことって!!」
立食パーティ形式の二次会やったんやけど松永が椅子に座り込んで口押さえて静かに泣いてたんだと。
立ち上がれんくなって泣いてたって。
「ばれたくなかったんだろうね」
「どういうことって!!」
「松永君限界来てたんだと思うよー。最近病気がちだったけどその頃から体調がずっと悪かったんだと思うー」
「すぐ病院行く!!」
「抜けること言っていかないとー。あと戸田君と奈々子ちゃんには内緒で。せっかくの席に水を差したくないからって。松永君のお願いでもあるからー。何か理由をつけてねー」
「分かった」
タクシーで移動中鎌やんが話した。
救急病院で診察を受けている松永が医者に話をしているのを聞いていたモリクミのラインによるとずっと薬を飲んでいたらしい。病院の処方箋がないと出せない薬を個人輸入で取り寄せて飲んでたって。
「どうして?何飲んでたん?」
「抗生物質入りの薬だそうだよー。熱と........そうだね、松永君は心配かけたくなかったのとばれたくなかったんだよ」
「どういうこと?何がどうなってるん!?」
「長野君にばれたくなかったんだと思うよー。病院に行くと保険使った葉書きが来ちゃうから長野君に見られたら心配されるかもと思ってたんじゃないかなー」
「なんでって!!手紙とか俺ら隠し事ないけん見るけどさぁ!!なんでそんなことしてるん!?」
「そりゃー長野君との生活を壊したくなかったのと怖かったんじゃないかなー」
「なん.......それ」
「松永君ほんとはさー、毎日辛かったんだと思うよー。松永君はさー、人の視線、言葉一つ、態度素振りで察しちゃうじゃんー。僕たちだったらさー気にしないことも松永君は気にして悩むよねー。心読んじゃうからー。須田教授は松永君のそんなところ分かってたから院に残るように言ってたんだよねー。あまり人と関わらず研究者として生きていた方が松永君が生きやすいだろーってー。でも今の仕事真逆じゃーん。松永君はすごく繊細ー。生き辛い世界なんだよー。天然記念物並の繊細さー。周囲を拒絶しないと生きていけない人だったのにー。そんな毎日でいつも張り詰めて限界来てたんじゃないかなー」
「俺の前じゃそんな素振りなかったよ!!少し元気ないかな位で!!」
「長野君には心配かけたくないからだよー。薬も帰りに歩きながら毎日飲んでたらしいよー。ほら」
モリクミからのラインにはそう書いてあった。
俺にばれるって泣いていることも。
お前何しよるん?
「長野君ー。松永君責めたり質問攻めにしちゃダメだよー。一番傷ついてるのは松永君なんだからー。必死で隠し通そうとしてたんだしー。長野君との生活壊したくなかったんだよー。でも松永君は限界来てる。ほんとは死にたくて人が大嫌いだった人が大切な人との生活の為だけに無理して来たのが限界来ちゃったんだろーね。ずっと溜まって溜まって体がもたなかったんだよきっとー。たった一人の人との生活の為にねー頑張ってたんだよー。分かるー?」
「愛されてるってことやろ。俺もあいつの気持ち分かるよ。でもそこまで無理せんでいいやろ!!なんで体調悪いなら悪いで俺に言わんの!!」
「だーかーらー。好きだからだよー」
モリクミのラインが鎌やんの携帯にどんどん届く。
医者に話をした松永の内容。
めまいがずっと止まらなかった。
毎朝吐いてた。
会社が終わったら抗生物質を毎日飲んでいた。
毎晩熱が出るのを会社帰りに飲むその薬で抑えていた。
バカヤロウ。
「怖かったんだろーね。長野君との日常が壊れるのがー。自分の体調のことがばれるのがー。可哀想だねー」
病院に到着して吉野と奥田と佐伯さんが寄って来る。
「松永君不安定になってるからね」
佐伯さんが俺のこわばった険しい顔を見て言う。
「長野。松永君ずっと泣いてたよ。自分の体が辛くて泣いてんじゃないの。長野に心配かけるってそればっか。余程知られたくなくて無理してたのよ。あんなに取り乱してる松永君初めて見た」
吉野がオネェで涙ちょちょぎれながら言う。松永のその姿が相当ショックだったんだろう。
「分かった。今松永は?」
「モリクミがさんがついてます。ベッドで点滴を受けていますが今日は泊まることになりそうで。少し落ち着いては来たみたいです」
奥田が吉野の肩を撫でながら言う。
「そっか。お前らすまんね」
俺が頭下げたのを佐伯さんが
「何言ってんの。そういうのいらない」
と手で顔を上げさせた。
俺だけで病室に向かう。
病室に入るとモリクミが松永のベッドのそばに座って松永を見てた。
「どう?」
「今.......点滴か注射のおかげか眠ったとこ。興奮してたから鎮静剤打ったのかもしれない」
「そっか。そんなに興奮してたん?」
「うん。病院に行く車の中でもここでもずっと泣いてた。鎌田から聞いた?二次会で椅子から立ち上がれなくなったって」
「おぅ」
「体が言うことをきかなくなったのもショックだったんだろうけど、そのことが知られるのが怖かったんだと思うの」
「松永大丈夫なん?」
「うん。お医者様の話ではね大丈夫だろうって。ただ........」
「ただ?」
「少し長い休みが必要だろうって」
そうなんだろう。
松永には休みが必要なんだろう。
「お医者さんがねー、あーん。遠まわしにね、休職して会社休めって話したのよー。体ボロボロだし仕事どころじゃないだろー?って。でも松永君がそれは出来ないって。生活があるから、って。長野君の名前は出さなかったけど長野君との生活のこと言いたかったんだと思う」
「そっか。モリクミ席はずしてくれん?お前ら帰る?」
「もうしばらくいようかなーんと」
「おぅ。俺明日休みやけんずっとここおるけんさ。マンションの鍵渡すけん松永のパジャマとか持って来てくれん?」
「分かったわーん。あのね、長野くーん」
「なん?」
「ごめんね」
「なんで?」
「私たちも松永君のこと気付いてあげれなくて」
モリクミが我慢してたのかドヴァーっと涙流し始めた。
ウォウォと吠えるように泣き始めた。
「なんがか。俺のせいやて。てか、お前の泣き方やかましい。まさかこげんなってると思わんかった。松永嘘吐くけんなー。今回もやられたなー。俺ら騙してこのバカが」
松永の頭撫でてるとうっすら松永が目を開けた。
朦朧とした視線で俺見て松永が泣き始めた。
「なんで泣くとって」
「ううっ」
松永が両手で顔を覆った。
モリクミが部屋を出て行く。
腕に挿された点滴がなんか痛々しい。
「ずっとおるけんね。眠りー」
「うっ。うっ」
「泣かんでいいよもう」
そんなに俺との生活大事やった?
体と心壊してまで守りたかったん?
両手で顔覆って泣き続ける松永見て俺も少し涙が出た。
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