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やっぱり、近くに来たのは失敗だったかもしれない。
俺以外に笑いかける久弥を見ると、本気で心臓が切り裂かれるんじゃないかと思うほどに痛みを感じる。
俺に挨拶をするとき、他のヤツらには分からないように装っているが、ガチガチに緊張している久弥が、痛々しくて切ない。
調子が悪いのか、元々細身なのに、最近は更にやつれてきているようだ。
俺がここにいることで、久弥が苦しむならば、やはり異動を頼むか…。
いや、戻ったばかりでそれは難しいだろうし、同じ会社にいればいつかは顔を合わせる。
それなら、いっそ辞めてしまうか?
そんなことまで頭をよぎった。
久しぶりに早く帰れた週末、スマホが鳴り、月曜の朝から急に一件打ち合わせが入った。
仕方なく会社に仕事を取りに戻る。
フロアの一部にはまだ、電気が点いていた。
もしかしたら…。
そっと覗くと、俺の足音に気付いていたらしい久弥が、こちらを振り向いたところだった。
じっとりと汗が滲んだ手を、ぎゅっと握り締める。
心臓がバクバク脈打ち、膝が震えるが、平静を装って声をかける。
「遅くまでご苦労様。
まだ帰れないのか?」
「あ、いえ…あの…もう、帰るところです」
警備員だとでも思っていたのだろう。
顔を出したのが俺だと分かると、しどろもどろになった久弥がやっとのことで返事をくれる。
「そうか」
怯える様子が切なく、胸が痛む。
「あ…えっと…。
ぶ…部長は、お帰りになったんじゃあ…」
二人きりなのに久弥から“部長”なんて呼ばれて、傷付く自分に呆れる。
俺には傷付く資格なんて、ありはしないのに…。
笑顔を取り繕い、ここに来た理由を説明する。
切なげな久弥を見ていたら、我慢が出来なくなった。
「…桐島くん…、よかったら…もし、迷惑でなければ…、一杯飲みに行かないか?」
一言一言、ゆっくりと言葉を選びながら、問い掛ける。
俺の方から声をかけたのに、恐怖に言葉が震えるのが、自分でもわかった。
少しの沈黙が、いやに長く感じられる。
何かを決意したように、久弥がキュッと顔を強ばらせ、そして、口を開いた。
逃げ出したい気持ちを堪え、返事を聞く。
「……はい、お付き合いします」
じっと目を見つめて言われた言葉に、ほんの少し安堵した。
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