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キスを見つけたのは、一体誰なんだろう?
その人に、俺は自分の名前が入った賞を送りたいくらいだ。
唇を重ねるという行為が、これほどの感動と繰り返しの欲求を生むとは考えもしなかった。
…なんて思いながら、落合仁は目前で健やかな寝息をたてて眠る、恋人の横顔に見惚れていた。ピシッとした灰色のスーツは、今ではもこもこした薄灰のスウェットだ。綺麗に中央分けされた黒髪はさらさらと枕に落ちていっている。160センチ前後の小柄な体を丸め、ハリネズミのようにすやすやと寝ている。恋人兼上司…今は、プライベートなので落合の恋人か。我妻京司は、仕事で説教する時の怒髪天をつかれた鬼みたいな表情を嘘のように和らげて眠っている。あどけない寝顔は、さながら天使だ。
「…。」
落合は、あまりの面映ゆさにベッドの上でもそもそしてしまう。足を入れ替え、意味もなく両の手のひらを擦り合わせた。
薄茶が残る黒髪は、思い切って刈り上げにしている。人の良さそうなえびす顔。乱れのない紺色のスーツが、今では白シャツと黒いジャージズボン姿だ。170センチと高身長の背を、恋人に倣うように窮屈そうに折り曲げて横たわっている。
十一月上旬。朝六時過ぎ。落合の家の寝室、ダブルベッドの狭っ苦しい空間に、男二人で転がっている。寝室はクローゼットの他といえば、エアコンとサイドテーブルくらいしかない。落合は、深い青のカーテン向こうから、微かに雀の鳴き声が聞こえてきた気がする。
掛け布団は二枚と少なめで、『俺を凍死させるつもりか』と年上の恋人は悪態をついた。落合は焦って大布団を出そうとすると、『俺は圧死したくないからな』と相手は目力を二倍に高めた。…どっちだよ。
(…で、いざ潜り込んでみると“先輩”のが先に寝ちゃうし。)
我妻が気に入っている“先輩”という呼び名は…二人っきりの時でしか使わない秘密の名だ。
呼ぶ度、みるみる内に落ち着きをなくす我妻が、年下の男にとっては愛らしくて仕方ない。
(その癖、やっぱ寒いから朝方は引っ付いてくるんだよな…。)
落合に寄り添う年上の恋人は、ぺっとりと密着してなかなか離れようとはしない。落合は目覚め、事態を把握して数分格闘したが、結局折れた。惚れた恋人には弱い落合だった。
お返し、とばかりに落合は人差し指で恋人の片頬をぷにぷに押してやる。…数秒後、むず痒そうに顎を引いて小さく唸る。
「…かぁ~んわい。」
思わず呟いて、落合は自身の口を片手で塞ぐ。…“かわいい”の一点張りになってしまう感想しか捻りだせない、今の恋人を起こしたくはなかった。
代わりにそっと、額に唇を押し当てる。起き抜けの、寝ぼけていたはずの鼻がふわりと彼の匂いを敏感に感じ取ったが最後。落合はごくりと、生唾を飲み込む。
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