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「昨日はすまなかった」
朝、登校の支度をしている湊に晃広はそう声をかけた。
手にはきれいにたたまれたひざ掛け。
昨日机で寝落ちした晃広に湊がかけたものだ。
「…気にするな。体は大丈夫か?あんなところで寝て」
「まぁ…良いとは言えないが自業自得だ」
「疲れてるなら今日は早めにベッド行けよ」
それだけ言うと、湊は受け取ったひざ掛けを椅子に掛けて再び支度にとりかかった。
昨日やった課題は忘れずにカバンの中に入れた。
今日の科目の教材も全てある。
「お前、真面目だよな」
一つ一つ確認していると、晃広が後ろから声をかけてきた。
晃広の知っている湊はとてもまじめで勤勉だ。
部屋にいるときは基本課題に取り組んでいるか本を読んでいるかだ。
学校でもゲームに明け暮れる俊太や、いつでも騒いでいる晴翔とは全く違う。
忘れ物もしたことがないだろう。
「……これぐらいしか、やることないし」
真っ直ぐ賛辞する晃広の視線から逃れるように下を向いた湊はカバンをぎゅっと握った。
誰かと話すことのなかった湊は空いている時間が多い。
空いている時間が多ければ、変に考えこんでしまうこともある。
それをなくすため、湊は勉強をすることが多くなった。
課題で分からないところがあっても聞く人間なんていない。
自分ですべて解決しなくちゃいけない。
忘れ物をした時に貸してくれる友達なんかもいない。
一つ一つ時間をかけて確認していくことで、自分が困るような事態を避けるのが湊の癖になりつつあった。
真面目と言われれば聞こえがいい。
だが、孤独で惨めだと言われてしまえばそれまでだ。
「自立するのは簡単なことではない。理由はどうあれ、それがお前の努力の結果だろ」
なぜそんなに落ち込む必要があるとでも言いたげな晃広に、湊は呆けた顔をした。
後ろめたいことなどない。
素直に思ったままの表情を浮かべる晃広に、湊は胸の奥がぐっと締め付けられるような気持ちになった。
「……惨めだとは、…かわいそうとは、思わないのか」
「は?何故だ」
「なぜって…」
やることがないからかわいそう。
ともだちがいないからべんきょうしかできない。
そう言われてきた湊にとって、晃広の感情が逆に分からなかった。
「過去に何を言われたか知らないが、俺はそう思わない。むしろあいつらに見習わせてやりたいくらいだ」
課題提出の日に喚きながら必死に課題をやっている俊太や晴翔を見ている晃広にとって、湊は計画的でしっかりしている奴に過ぎない。
それだけを言って自分の準備に取り掛かり始めた晃広の姿を見つめたまま、湊は自分の胸元をクシャリと握りしめた。
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