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散りぬるを。
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「犬神様っ、仕事してください!」
最近言われることといえばこればかりだ。
ついこの前まで俺に付き従いふわふわとした笑顔を振りまいていた白児。
「…それもこれも、あの…」
っと、言葉をとめる。
あまり品の無い言葉を放つのはいけないな。
「犬神様、先日の百鬼夜行はお初とは思えない手際の良さ。気品。あっぱれでございましたなぁ」
すり寄ってきたのは覚。
しかし俺が手に持っていた照魔鏡で照らし出せば、その正体は…
「おや、今日も他のものに化けてるんだね、魑魅」
笑って言えば彼も笑って煙とともに元の姿に戻った。
「旦那の照魔鏡があったら化けて騙すことも出来やしませんね」
そう言いつつ魑魅は俺の手に握られた漆塗りの鏡に目をやった。
くるりと裏返して鏡をたもとに押し込み
俺は仕事へと向かった。
梅の香りの漂う中庭を抜け廊下を進む。
昨日は散々だった。
皆何時ものように我を忘れて人を喰らい、
地獄絵図と化していた。
しかしそのことより…。
「犬神様、金毛玉面九尾様がお待ちでございます」
白児のその言葉を合図に、
1番奥の座敷の戸口に座っていた座敷童の2人が声を揃えて言う。
「「犬神様、ご到着でございます」」
襖が開けられ光が漏れる。
「相変わらずですね、九狐様」
漏れ出た妖気にあてられそうになりながら笑顔を浮かべる。
「やぁーん、会いたかったわぁ、犬神様ぁ!」
襖が閉まるや否や飛びついてきた彼こそ、
あの有名な九つの尾をもつ、
金毛玉面九尾である。
「どうしてまたそんなお姿を…」
呆れながら言うと彼は妖艶な笑みを浮かべて言う。
「あらぁ、失礼ねぇ。似合うでしょう?」
彼は十二単を着、女性のように髪を伸ばしていた。
「まるで女性ですよ」
その言葉に満足したのか彼はふわりと微笑んで煙とともに元の姿に戻る。
黄金色に輝く髪を烏帽子に隠しても、
紅く光る目、恐ろしいほどに整った顔で臙脂の指貫と藍色の縫腋を着こなしている彼。
もし彼が人の世でもその姿でいたなら、
私と張り合う相手となり得ただろうに…。
そう思いながら彼の前に座ると、
その恐ろしく整った顔がずいっと近づいた。
「他の奴の臭いがするね…やだなぁ」
すんすんとにおいを嗅がれ、俺は慌てて身を引いた。
「…気のせいでは?」
誤魔化してみるが彼の機嫌が悪くなるだけだった。
「…そうだよね、君は百鬼を率いる妖怪の長になったんだ…」
ギラリと光る目に見つめられ体の動きを縛られる。
「...っ、九狐様。何をなさるんですか…」
動かない体でなんとか言葉を発したものの、汗が吹き出る。
彼が本気で怒ったら…。
「月夜の君…君は、誰のものなのかな」
「…私は、私のものですよ」
少し悩み応える。
すると九狐様のため息とともに体が軽くなった。
「そうだね…まぁ、いいや。その話はまた後でにしようかな」
本題に入ろう。その言葉に俺は姿勢をただす。
「知ってると思うけど、俺たち妖狐の中で百鬼に参加するか否かで派閥が割れてる」
妖狐は他の妖怪に比べ頭が良く、なおかつプライドが高い。
百鬼夜行に加わるということは、
ぬらりひょんに下るということで。
「…だが、百鬼を率いるのが君だということを聞いて、下る側が9割を上回ってね」
思わず目を剥く。
「9割、ですか?」
妖狐だけでも百鬼を上回る数を誇る。
その9割…。
「まぁ君と契りを交わしたいが為に百鬼に下るという奴が大半だろうがな」
不機嫌そうな声にゾワリと震える。
「契りを…」
そう言葉を続ける九狐様は俺の目をみる。
「俺も契りを交わしたい」
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