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ーーーーうわ、ホモだよ。
ーーーーえ? どこ……うわ、やば。
向こうのほうから、声が聞こえた。
チャイムの大きさにビクッと身体が跳ねる。驚いたのは深谷も同じで、前につんのめってから立ち上がった。
「っ! うるせー! ああ、あそこにあんのかー、びっくりしたー!」
スピーカーを見上げる彼の視線に、誘導されて自分も空を仰いだ。こんなにも晴天なのに、古ぼけて汚れた校舎は冷たい冷たい影を作る。こんなところにいたら風邪をひく。寒い。居たくない。
誰かの笑い声が怖い。
授業を受けていたやつらの移動するざわめき。気の早い蝉が一匹、どこかで鳴いている。求愛しても、誰もいないよ。みんなお前が死んだあとで、もっと色鮮やかで濃い夏を過ごすんだよ。
お前が死んだあとで。
「……………待てよ、」
先に戻る俺のあとを、深谷はついてくる。俺といないほうがいい。誰に見られてるか、わかんないんだから。
罵りなんて、もう気にしないはずだった。
当たり前だ。カミングアウトの代償は、何度も受けてる。この大学でも、既にいつもの洗礼はくらった。何かを投げつけられたこともある。無視も、遠巻きにされた経験も。喋りかけてきた人がいた。罰ゲームでだった。トイレに入れば警戒される。隣に座れば避けられる。俺が話すと、沈黙する人達。俺が笑えば、顔を見合わせる人達。廊下ですれ違うときに、じっと見られることさえわずらわしい。つらい。恥ずかしい。生きてることじたいが、場違いなのかな、俺は。
そんなことない。
わかってる。
もう知ってる。気にしなきゃいい。考えて考えて、明るい答えを出す方法。仲間同士で傷を癒しあう夜。大丈夫。俺はもう、じいちゃんの小屋で、暗い中、毛布をひっかぶって現実に怯えてる子供じゃない。
強くなった。
「…………あ、トイレ行きたい」
「勝手に行けよ」
「うん」
深谷はテコテコ変な動きで走っていく。
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