アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
どうして
-
帳の学校は、電車で5駅。そこからバスで15分の、少し奥まったところにありながら景色が良く、都心も近いというとてもいい場所に建っている。
しかも公立高校で、自然豊か。授業での帳の席は殆どが窓際で、そよ風が気持ちいい。
帳が学校に着くと、時刻は7時10分。
少し早く来すぎたとは思いながら、靴を履き替え、自分の教室へと足を進める。まだ朝早いからか、廊下を歩いていても生徒はおろか、教師すら見当たらない。
「ふぅ…」
教室の前に来て、帳は一度呼吸を整える。
ガラガラ…
扉を開け、自分の席の近くに来て帳は足を止めた。
今日、早く来たのはこれの確認をしたかったからだ。
「やっぱり」
そう呟くと、一度上を見て心を落ち着かせ、もういちど自分の机を見て、はぁ、とため息をついた。
彼の机の上には、ペンで落書きがびっしりと書かれていた。
それをしたのは他でもない、奏だろう。
どうして自分が、と帳は拳を握った。
「くそ、迷ってる場合か。早く消さないとみんな来るし…どこかに雑巾は…」
と呟きながら荷物を置いて消すことを優先した。
しばらくして、廊下の方がザワザワしだし、生徒たちが来たのだと分かった。
そして一番に入ってきたのは奏だった。
「奏さぁ〜ん、今日はどうしますぅ〜?」
奏の側近らしい男子が少しふざけながら問う。それに対して奏は何も答えず、まっすぐ前を見ていた。
その視線の先には、帳。彼がいた。
「…」
「…」
しばらくの沈黙が流れる。
周りの奴らもその中に割って入っていくような命知らずではない。
「……はよ」
先に口を開いたのは、奏だった。
瞬間、彼の周りを纏っていた緊張は崖が崩れるように落ちていった。
「昨日は、俺の部下が本当に失礼なことをした。奴らの主として謝罪する。本当にすまなかった」
奏が頭を下げたのを見て、周りにいた生徒は目を見開いた。まさか有名会社の御曹司ともあろうものが、ただの一般家庭の息子の帳に頭を下げたのだ。それだけ周りから見れば信じられない光景だっただろう。
「…なっ、奏様…!?」
「え、と…ぁ、たまを上げてください…というか…どうして…」
「そうですよ奏様!!どうしてですか!!」
「頭を上げてください!!こんなやつに謝る必要ありませんって!!」
次々に答える側近たちが帳を指さし、ズカズカと教室の中へ入っていく。そんな彼らを止めるように、
「うるせぇぞ」
と、奏は言い放った。
「…なんで……」
その異様な光景を理解しきれない帳は、そう呟くしかなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 33