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春風息吹
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新学期2日目。
慣れない廊下を歩いて、教室について自分の席に着こうとした足が止まった。
窓際から2番目の席。
隣の席。
朝の柔らかい太陽の光に当たって、ぼんやりと窓の外を見ている華奢な後ろ姿。
ふわりと風が舞い込んで、柔らかそうな髪が揺れて———
窓から顔をそらしてこちらを見つめた2つの目は、綺麗なブラウンなのに、何を映しているのかわからない。
——————春風息吹。
気まずい沈黙が流れる。
気怠そうな目をした綺麗な少年、いや、春風息吹は何も言わない。
俺は沈黙に耐えかねて口を開いた。
「昨日から転入してきました、春本颯といいます。隣の席、よろしくお願いします。」
撮影現場かのような硬い挨拶をしてしまった。
周囲が少しざわめく。
なんだ?と思ったが、その理由はすぐにわかった。
———春風さんに話しかけたよ。
———やばいな転入生。新人モデルは勢いあるなぁ
あぁ、そういうことか。
俺は、高価な宝石に無粋にも触れてしまった勇気のある無知な男ってことか....
これはやってしまった。
モデル人生初の「干される」覚悟を決めて下を向きそうになったその時。
それは、小さな小さな声だった。
春の優しい風のように、ふわりと流れていってしまいそうな、儚い儚い小さな声。
「春風息吹といいます。よろしくお願いします。」
ざわつく周囲には聞こえないような小さな声で、目をそらしながら俯いた頬が少し赤く染まる。
———わ、怒らせちゃったよ。
そんな言葉が聞こえて、困った顔をしてもっと俯いてしまった綺麗な顔。
なんだ、ただの恥ずかしがり屋の高校生じゃないか。
そうわかってしまうと、目の前の華奢な肩が震えているのもわかって、なんだかいたたまれなくなってくる。
どうせ新人モデルだ。
干されようと、怒られようと、失礼だと言われようとかまわない。
それより今は、目の前のひとりのクラスメイトの笑った顔が見てみたい。
よろしく、と次は軽く返して隣の席に座る。
下を向いた春風息吹がそれ以上何か言うことはなかった。
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