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小さな声
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ざわついた空気のまま1限目が始まった。
古文の先生が教室に入ってくる。曲がった腰をぼんやり見ながら机の中を漁ってみて、まだ教科書を手に入れてないことに気づいた。
朝日に照らされながら俯いた顔を思い出す。
頬を赤く染めて、どこか少し寂しそうな表情をしていた。
そして、肩を震わせながら小さな小さな声で返事をしてくれた横顔も———
「教科書見せて…ください。」
芸能界では大先輩だということを思い出して思わず語尾を変えてしまった。
また俯いたさみしそうな顔。
それでも、
「どうぞ。」
また小さな声で答えてくれた。
机を引っ付ける俺たちを、また周囲がチラチラと見る。大御所役者と机の席を引っ付けた新人モデルの転入生。大丈夫かと言わんばかりの視線だ。
机を引っ付けて終えて席に着く。なぜか教科書は真ん中より少しこちら側に置かれていた。
適当に置いたのか、気を遣わせてしまったのかはわからないけれど、軽くぺこりと頭を下げてから教科書を覗き込んだ。
———すげぇ。
覗き込んだ教科書にはびっしりと古文の訳が書き込まれていた。
俺よりも、恐らくBOWの2人よりもかなり忙しいはずなのに、いつの間にこんなに勉強しているのだろう。思わず顔を上げて隣に座るクラスメイト、いや、大先輩を見つめてしまった。
まっすぐ前を向いたその横顔は改めて近くで見ると怖いくらい整っていた。
透けそうなくらい白い肌に綺麗な二重が目立つ。
そしてその目はどこか疲れているように見える。
前を向きなおしてぼんやりと肘をつく。
ちゃんと休めているのだろうか。
夜寝る時間はあるのだろうか。
気が抜ける時間はあるのだろうか。
撮影以外で笑うことはあるのだろうか。
不意に肘をつつかれる。
クラス中の視線が集中していた。
何だ??
状況がよくわからず固まっていると、
「当たってますよ。」
少し困ったような小さな声が、シンとした教室に響いた。
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