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クラスメイト
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びっしりと予習された教科書のおかげで、なんとかその場をしのぐことができた。
お礼を言わなければと思いつつも、授業中だし話しかけられない。
少し考えて、手帳のを取り出して白紙のページを開いた。
(ありがとうございます。助かりました。)
少し緊張しながら走り書きした手帳を隣の席に差し出した。
少し驚いてこちらを見つめてから手帳をチラリと見て困った顔をする。
本当に、困った顔しか見せない。
困った顔のまま俯いて固まってしまって、気まずい空気になって前を向きなおした。
少し時間がたって授業に集中し始めた時、不意に目の前に手帳が置かれる。少し驚きながらも手に取る。
(どういたしまして。それから、)
それから————
(敬語じゃなくて大丈夫です。)
敬語じゃなくて大丈夫だという敬語で書かれたメッセージ。
隣を見ると、さっきよりも俯いていて表情が見えない。
表情は見えないけれど、髪の隙間から見える耳は真っ赤に染まっている。
失礼だけど可愛くて、頬が緩みそうになるのをこらえて、今度は走り書きではなく丁寧に書き込んで、また手帳を返す。
(こちらこそ、敬語じゃなくて大丈夫。)
それからこっそりと静かに、だれにも騒がれることもなく、俺たちのやりとりは続いた。
——何て呼べばいい?俺は颯でいいよ。
——息吹で大丈夫だよ。
——あんまり学校来ないの?忙しい?
——今はドラマの撮影があるから、番宣もあるし少し忙しいかも。
——月曜のドラマ?昨日第一話の放送見た。すげーよかった!
——恥ずかしいけどありがとう。颯はずっと撮影?
春風息吹。
息吹。
実際には呼んだことがない。
でももう芸能人じゃなくてクラスメイトだ。
素直にそう思えると、整いすぎた横顔がさっきよりも幼く見えた気がした。
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