アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
72
-
「秋っ!」
ずっと待っていたのかと思う反面、少し悪いことをしたなと反省する。
ひろとさんに抱き締められてもずっと放心状態で、頭の中は誘拐犯のことで一杯だった。
その日から一人の病室になり、窓とドアには鍵がかけられた。
逃げることが出来なくなり、ベットから起き上がってじっと窓の外を見ることが多くなった。
一日の大半を窓の外を見つめるだけで終え、ひろとさんがきてベットに戻ってもぼーっとしてることが多いと言われた。
数日後、警察がきて事情聴衆をされた。
「あのログハウスで何をされた?」
「犯人はどんな感じだった?」
何を問われても忘れたと言って、自分から口は割らなかった。
「全部…憶えてません」
警察はこれ以上質問をしても無駄だと判断したのか、帰っていった。
夜中。誰かが持ってきてくれた花瓶で窓ガラスを割った。
当然のように看護師が来たが、足にガラスが刺さるのもお構い無く飛び降りると、走って逃げた。
走って走って。
何故かいつの間にか森に入っていた。
道無き道を歩き続けると、ログハウスが見えてきた。
窓から覗くと、確かに俺が監禁されていた場所の筈なのに、ドアは壊れていなかった。
ドアを開け、中にはいると灯りが灯っていて、ソファーには誘拐犯が座っていた。
「……戻ってきたの?」
誘拐犯が後ろを振り向いて言った。
大きく手を広げている。
来いということだろうか。
近付き手を取る。
「なんで僕が捕まんなかったり、この家が壊れてないかわかる?」
ふるふると首を降ると、俺をソファーに座らせた。
「………ねぇ秋くん。僕が誰だか、分かる?」
「まだ…なにも聞いてない。たくさん知りたいことがあるのに」
そういうと、腹を括ったように真面目な表情になった。
「……僕は、……僕は………腹違いの君の兄だよ。」
その言葉を聞いて、目を見開いた。
「僕のお父さん、基、秋くんのお父さんは、二人付き合っていた人がいた。でも、秋くんのお母さんはそれをお父さんから言われても結婚を渋らなかった。理由は……今度秋の祖父母に聞くといいよ」
衝撃だ。俺の記憶の中では、お父さんとお母さんはいつも仲が良かった。
いってらっしゃいのキスもするし、いつも楽しそうに喋っていた。
でも記憶がないほど昔、まだ俺が小さかった頃、お父さんが帰ってくるのが遅い日が度々あった記憶が微かにある。
その時には限ってお母さんは家事をしながら鼻唄を歌っていた。
唄は明るい曲っぽいのに、お母さんの表情はいつも寂しげだった。
それは、お母さんの他に愛する人がいることが悲しかったのだろう。
遺品整理の際に古いカセットが出て来たものをCDに変換して貰い、曲を聞いて検索をかけると、昔々の恋の歌だった。
「僕が捕まらない理由は、秋くんの誘拐事件が神隠しに等しいから。何故って、僕はもうこの世にいない存在だから」
そう言うと、一枚だけ写真を取り出した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
72 / 82