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星涙病4(ky視点)
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ずっと、ある人が好きだった。
多分初恋。
俺の名前をその人が呼ぶ度に、おかしいぐらいに心がはねた。
好きだよって言えたらどれだけ良かっただろうか。
…ね、ガッチさん。
本当は、あの日ガッチさんに告白しようと思って家に行ったんだ。
アルコールがまわってるからか、ガッチさんはすぐに寝てしまった。
寝顔を見つめてたらさ、俺だんだん今の関係が崩れるのが怖くなってきて。
…諦めようと思ったんだ。
そしたらなんか目から星が出てきた。
正直すごく驚いたし、怖かった。
でもガッチさんが傍にいてくれたから、俺は笑っていられた。
それだけ俺はガッチさんのことを大切に思ってたから。
だからガッチさんが一瞬分からなくなったあの日、俺はとても不安になった。
なんでこんな大切な人を忘れてたんだろう。
なんで、俺は…
──────────────
ふらっとコンビニに買い物に行って帰ってきたら、兄貴が俺の家の前で誰かと話していた。
「─ありがとうございますっ…」
…あれ、兄貴何してんだ?
その瞬間2人がこっちを振り向く。
兄貴では無い方の男は、俺を見て顔を歪ませた。
「あーバレちゃったかー。やっぱりこの星邪魔だなぁ…。よ、兄貴。何やってんだ、俺の家の前でさ」
「…キヨ」
「あれ、友達?こんにちは」
兄貴が俺の服の袖を掴む。
俺はそばに立っている男の顔を覗き込んだ。
…知らない顔だな。俺の知り合いじゃないし、やっぱり兄貴の友達か?
でもさっきの雰囲気見るとそんな感じもしないんだよなー。
てか兄貴静かだなぁ!!
俺にはいつもうるさいクセに。
「…ほんとに忘れちゃったのか」
…小さく、でも聞き覚えのある声が、俺の耳元でした。
「え…?」
「いや、なんでもないよ。…すみません、俺はそろそろお暇しますね。後、これおかえしします。」
男は悲しそうに微笑んで、俺たちに背中を向ける。
「そんな…!あの、いつかお礼を」
「気にしないでください。最後にキヨの笑顔が見れただけで十分ですって」
俺…?
やっぱり俺の知り合いか?
兄貴は男の姿が見えなくなるまでずっと頭を下げていた。
「…兄貴」
「…なに」
「それなに?あれ誰?俺の知り合いだった?」
兄貴の手の中でクシャクシャになった紙を指さす。
「…話すよ、だからいれてくれない?」
兄貴は震える声で俺に言った。
──────────────
「お前は病気なんだよ」
ソファに座るなり兄貴は俺に言った。
「…この星のこと?」
「そう。『星涙病』って言うんだと。」
星涙病…?なんだそれ、めっちゃメルヘンな名前だな。
「…これみてよ」と兄貴が渡して来たのは、『診断書』と書かれた薄い紙だった。
黒い文字で「星涙病」と書いてある。
…ほんとにそんな病気あんのか。
「特定の相手に強い想いを抱くと、稀に発症する奇病だって。」
「特定の相手に強い想い?…俺が誰かを好きになったみたいじゃん」
何言ってんだよ、俺は初恋すらまだだぞ。
兄貴は俺から目をふいっと逸らした。
「…ほっとけば記憶がどんどん無くなっていく怖い病気なんだけど、お前のはもう治りかけてるらしいよ。」
「へぇ記憶が…記憶が!?それやばいヤツじゃん!なんで俺治ってんの!?」
確か星が出始めたのは3週間前ぐらい。
誰かの家に行った時…誰だっけ。
まぁそれは置いといて、この3週間何も特別なことなんかやってない。
なんで治ってるんだ…?
兄貴が俺の傍に座り直し、俺の手を握る。
「なんだよ、今日なんか変だよw」
「…あのさ、その星がとまったら病気が完治した証拠らしいんだけど…その前に言わないといけないことがあるんだ。」
「そんな改まってねぇでさっさと言え」
「その病気って治らずに記憶が全部無くなる場合が多いんだ。でもお前は治った。…星涙病の唯一の治療法は、」
「治療法は?」
「…24時間以内に好きな相手に星を食べて貰うこと。」
頭の中で何がが弾けた感覚がした。
好きな相手に星を食べて貰うこと…
好きな相手。
俺の、好きな…
「…ガッチ、さん…?」
兄貴が悲しそうに目を細める。
「でもお前はその星がとまった時、つまり病気が完治したらその人のことを忘れてしまうんだ。」
からん、と星の落ちた音が俺の頭に響く。
「忘れる…」
「そう」
忘れる、忘れる?!
嫌だ、そんなの嫌だっ…!
なんで忘れてたんだ、さっきだって隣にいたじゃないか。
「キヨ 」って…俺の名前を呼んでくれたじゃないか!
なんで俺は分かんなかったんだよ…っ
「嫌だよ、忘れたくないっ」
「おい、落ち着けって」
兄貴の言葉を無視して俺は洗面所の鏡の前に行く。
大丈夫、まだ星は出てる。忘れてない。
俺の名前を呼ぶ声も、あの優しい目元も、柔らかく笑う顔も、意外に力のある腕も。
俺の記憶にあるガッチさんのこと全て。
俺のものだよ、絶対忘れたりなんかしねぇ!
想いが叶わなくたっていいよ、ただいつもみたいにゲームやって笑って、傍にいられたら。
ガッチさんの、傍に…
…そうだ、忘れててごめんって。俺はガッチさんのこと覚えてるよ大丈夫、って電話しないと。
それから、好きだったよって伝えよう。
嫌われるかな…嫌われるよな。
その時はその時だ!
俺は慌ててリビングに戻り、兄貴に叫ぶ。
「兄貴俺のスマホ取って!」
「お前、星とまって…」
「はやく!!!」
「あ、あぁ…」
凄いスピードで飛んできたスマホをキャッチして、ロックを外す。
ロックはあの人の誕生日。
レトさんに言った時ドン引きされたっけ。
「…早く、忘れる前に」
忘れる前に、好きだよって。
好きだよ、って…
…誰に?
画面をスクロールする指が止まる。
誰に、誰にだっけ…?
レトさんでもうっしーでもフジでも、他の奴らでもない。
誰かに言わないといけないことがあったんだ!
忘れたくない人がいたんだ…
誰だ誰だ誰だ誰だ…っ
気づけば俺に3週間付き纏っていた音は消えていた。
…星が出てない。
「…じゃあ、俺はなんで普通に泣いてるんだよ」
頬を熱いものが流れる懐かしい感覚がした。
別に痛いとこもないし、悲しい事があったわけでもないし。
そんな、と小さく兄貴が呟く。
「兄貴…俺、なんで泣いて」
「いいよ、いいよ泣いても…っ」
「…ははっ、変なの」
小刻みに震える手で兄貴が俺を抱きしめた。
────────────────
「レトさん、うっしー。紹介したい人って」
レトさんが俺の前に立ってにこにこ顔で答える。
「そうだよ。こちらが“ガッチさん”。俺たちの友達。キヨくんも会ったことあるはずなんやけどな」
レトさんの後ろから1人の男の人がひょっこり現れた。
…会ったことあったっけ…?覚えてねぇな。
その人は俺の顔を見て少し悲しそうに笑う。
「…初めまして。“ガッチマン”って言います。ガッチさんでもなんでも好きに呼んでよ。」
そして手を俺に差し出した。
…とくん、と心臓が跳ねた気がした。
「…キヨ?」
「あぁ、ごめん。…俺はキヨ。キヨでいいよ、よろしくな“ガッチさん”!」
俺は差し出された手を握る。
…骨ばってて、でも男らしい手。
頼りになりそうだな、守ってくれそうだな…
って何考えてんだよ。男相手に。
おかしい。
“ガッチさん”は、俺の目を見てふんわり微笑んだ。
…おかしい。
初めて会った相手だぞ?
なんでこんなにドキドキすんだよ…っ
「っぁ…俺トイレ行ってくんね!」
3人に一言だけ断り、俺は他の部屋に逃げ込んだ。
うっわ…めっちゃ顔赤いじゃん。
“ガッチさん”に変に思われてねぇかな…いや、思われてんな。
くっそなんで俺がこんな女子高生みてぇな事しなきゃいけないんだよ…。
「…ガッチさん。」
口に出してみると、口元が面白いぐらい緩む。
…いつだったか、兄貴に聞かれたことがある。
『もし好きな人の記憶を全て無くしてしまったらどうする?』って。
もし俺に好きな人が出来たならそれは初恋だ。
…多分、記憶がなくても同じ人を何度でも好きになると思うよ、って俺は答えた。
俺は記憶を無くしたことなんてねぇからわかんないけどさ。
俺がもし記憶を無くしたとしても。
俺は何度だってガッチさんを好きになる、そんな気がした。
──キヨ視点end───
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