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曼珠沙華6
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────レトルト視点────
「ふざけるな!!!!」
広間に怒声が響き渡り、使用人達がびくりと背を正す。
俺と父上の話を傍らで聞いていた兄様は、難しい顔をして腕を組んだ。
「…レトルト、お前は何を言ってるのか自分で分かってるのか?」
「分かっています、俺の決断がこの国にどういう影響を及ぼすのかも承知の上です」
「ならなぜそんな答えが出る…婚約を、結婚を破棄するとお前は言ったんだぞ!!」
眼光鋭く俺を睨みつける父上は、玉座の隣にあった花瓶を俺に向けて投げつけた。
膝まづいたまま首の角度を変え、それを避ける。
後ろの方で宮女達の悲鳴が聞こえたが、父上には届いていないようだった。
「何故だ、他に女ができたか」
「さぁ…父上お言葉ですが、私はあの国とはもう縁をきってもいいと考えています。前々から兄様には伝えていました」
「お前にこの国の何が分かる!」
「…あの国の最近の行動は目に余ります。他国に喧嘩をどんどん仕掛けていって…自分達が危険になればこの国頼り。内戦も酷いと聞きますし、もうすぐあの朝廷は没落していくでしょうね。私達も今は平和が保たれているとはいえ、このままでは巻き込まれますよ」
「煩い黙れ!」
真っ赤な顔をして父上が叫んだ。
父さん、と慌てて兄様が駆け寄っていく。
「……父上、結婚を考えて直して頂けませんか」
「お前…!」
「父さん落ち着けって。レトルトもやめろ、2人とも取り乱しすぎだ」
「兄様…」
皆怖がってるだろ、と言われて初めて周りを見渡すと、恐怖に染まった使用人達の顔が見えた。
「……すみません、頭冷やしてきます」
「それでいい。父さんは俺が見とくよ」
兄様は優しく微笑んで、扉の向こうに消えた。
ほっ、と息をつく声が色んなところから聞こえる。
…初めてだな、こんなにあからさまに父上に反抗したのは。
ふと割れた花瓶が目に入る。
欠片を拾おうと手を伸ばすと、使用人の1人に止められた。
「ダメです、お怪我してしまいますわ!私達が致しますので!」
「俺も手伝うよ、元といえば俺のせいだし」
綺麗な細工が凝らされた陶器の破片を広い集める。
…父上は了承してくれないだろうな。
身請けの準備はもうできていると言うのに、どうも上手くいかないものだ。
開け放たれた窓から、風が入ってくる。
桃の花の匂いはいつの間にかしなくなっていた。
──────────────────────
十、二十、三十…
ぱらぱらと紙幣を数えるのが最近の習慣となってしまっていた。
花魁となってしまえば身請けの金も大量に必要になるだろうな、なんて考えてながら手元の金色の櫛を日に翳してみる。
…最近のキヨくんは元気がなかった。
客である俺の前ではにこにことした笑顔を崩さないけれど、もう3ヶ月以上も一緒に過ごしてきたんだ、わかってしまう。
聞いても答えてくれないし、どうするか困っていた時に、あの禿達が俺の部屋に来た。
1週間ぐらい前だったか、今のように部屋で書物を読んでいると、ひょっこりと現れたんだ。
「レトルト様にお伝えしたいことがあって、お店を抜け出して来ました」って。
そして聞かれたんだ、「レトルト様は姐さんを好きなんですか」って真剣な顔で。
どうやらキヨくんが最近元気がないのは俺に関することだったらしい。
花魁の心を射止めることができたのが、とても嬉しかった。
…あぁ、この人を俺の妻にしたい。
心の底からそう思った。
予定されている隣国の姫君との結婚の儀はひと月後。
まだ間に合うかもしれない。
手元の櫛が、陽の光を浴びてきらきらと輝く。
そこに彫られているのはうちの紋章と、あの姫君の家の紋章。
俺はそれを投げ捨てて、部屋を出る。
これを作る職人はどこに住んでいたっけ。
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次のお話は多分えっちします!
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