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初夏の爽やかな風を感じながら、いつもの待ち合わせ場所へと歩く。普段より少しだけ早くなる鼓動は、2週間ぶりに会える彼のせい。通勤に使っている見慣れたはずの駅さえ、いつもより色鮮やかに見える気がするのだから不思議だ。
彼がいつも出てくる出口の傍に立って弾む呼吸を抑え、1つ深呼吸をする。
大丈夫。今日も何事もなく終われる。絶対にバレない。
目を閉じて、自己暗示をかけるように心の中で何度もそう唱えた。
どれだけデートを重ねても、この瞬間にはまだ慣れない。
それから数分経って彼は予定の時刻丁度に姿を現した。
「マコト!おはよう。」
自分とは対照的に明るい髪色の彼が、目が合った瞬間にこちらに駆け寄りながら綺麗な笑顔を見せる。
「おはよう。」
「ん、寝癖ついてる。急いで来たのか?」
「わ、ごめん。ありがとう!ちょっとだけ寝坊しちゃって…。その、あの…今日が楽しみで…寝れ、なくて。」
「…可愛い。やっぱ、外やめて家でデートする?」
慌てて髪の毛を撫で付けていると、耳元でそう尋ねられて肩が跳ねた。大きな手のひらが、シャツの上からするりと腰を撫でていく。
「だ、だめ!」
「わーかってるって。」
咄嗟に叩かれた手をひらひらと振って可笑しそうに笑うこの男の名前は、良野統(ヨシノトオル)。
そして、マコトと呼ばれた僕の名前は有川雅也(アリカワマサヤ)。決してマコトなどという名前ではない。
僕は、恋人に自分の存在を偽っていた。
「ほら行くぞ。マコトが行きたがってた店、駅からすぐだったよな?」
「あ、うん…!」
くい、と手を引かれれば自然と絡まり合う指先。
「相変わらず小さいのな。」
「統が大きいんだってば!」
「…会いたかった、マコト。」
「…うん。僕も、」
嬉しそうにはにかむ統は、大きくしっぽを振る大型犬のようだ。
曖昧にしか返事ができないことがもどかしい。
嬉しいはずなのに素直に喜べない。
だって僕は、君が好きな「マコト」じゃない。
統は僕の正体を知ったら、なんて言うんだろう。
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