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そもそも2人の出会いは、語るほどでもないありふれたものだった。
有川雅也は幼い頃から平凡を絵に書いたような少年で、容姿も学力も平均値。特筆すべきことといえば他人より少しだけ全ての行動リズムが遅かった。例えば学校での板書をノートに書き写すこと、次の授業の準備、体育の着替え、掃除当番。気付くと自分一人だけが流れに取り残されている。本人もその自覚があって、周囲の流れに合わせようとひたすらに努力した。けれどその頑張りは空回りするばかりで、時には他人に迷惑をかけてしまうことすらあった。だから同級生たちから鬱陶しがられるのは自然の流れだったのかもしれない。
特段酷い扱いをされた訳では無いが、なんとなくクラスに馴染めないまま学校生活を過ごした。
仲のいい友達ができるわけでもなく、淡々と過ごす味気ない日々。
だけどそんな中でも小さな楽しみはあった。
それは中学校2年生の時に同じクラスだった男の子。
身長が高く明るい性格の彼は、いつもクラスの中心にいた。男女問わず友達がたくさんいて、学級の代表なんかも務めていたし、先生からの信頼も厚く、成績も優秀だった。おまけにクラスで浮き気味の彼にも気さくに話しかけてくれる。一体何を食べて育ったらあんな神様のような人になれるのかと不思議だった。
くるくると表情が変わって、クラスの先頭に立って行動できる彼から目が離せなくなった。
僕もあんな風に振る舞えたら、何か変わっていただろうかと。
クラス以外で彼と何か繋がりがあったわけじゃない。
ただなんとなく、彼の輝かしい人生の欠片を目にすることができて幸せだった。いつかあんな人になれたら、なんて憧れていたのかもしれない。
その日は、憂鬱な日だった。
数学の課題に時間がかかって、掃除当番に出遅れた。先に教室の掃除を始めていたクラスメイトはうんざりとした顔をしていて、ただ俯いて謝ることしかできない。だから1番面倒なごみ捨てを指示されたって文句は言えなかった。
数日分のゴミが満載に詰め込まれた袋を抱えて、階段を下りて校舎裏を目指す。少しもたつきながらもゴミ置き場に到着して、そっとゴミ袋を置くと、密かに話し声が聞こえた。他のクラスの掃除当番かと視線を巡らすと、校舎の影にこちらに背を向けて立っている後ろ姿が見えた。
校舎内からは見えないような位置にいるが、ここからは丸見えだった。それが誰かは、振り返らなくたって分かる。あんなに身長が高くてスタイルのいい人は他に思い当たらない。
誰と話しているのかまでは見えないが、なんとなく見てはいけない雰囲気を感じた。
声をかける間柄でもないし、覗き見なんて趣味ではない。見つかって気まずくなる前に立ち去ろう、という結論に至ったところで彼が僅かに背中をかがめた。それとほぼ同時に見えた、彼に抱きつく細い腕。
その瞬間に、雅也は踵を返して早足で校舎へと戻った。
あれはきっと、僕が見ていい現場じゃない。
だって、
あれは、
あの腕は、男子生徒の制服を着ていた。
一気に階段を上がって、息を切らして教室に駆け込む。同じ掃除当番のメンバーは不思議そうにしていたけれど、上手い言葉を返す余裕もなかった。
ただ、学ランの裾から覗く青いミサンガが、妙に印象に残っていた。
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