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勿論それからも、僕と彼に関わりなんてない。2人がどうなったのかも知らない。
3年生になった春のクラス替えでクラスは分かれてしまったし、進学先だって頭のいい彼と鈍臭い僕じゃ当然違う。
僕の初恋は、そこで終わった。
何もなかったけれど、彼は間違いなく僕の人生に大きな足跡を残していった。
そして高校、大学をなんとか卒業して見事に就活の波に乗り遅れた僕は、地元の小さな本屋さんで働き始めた。
元々大企業に入れるなんて思ってもいなかったし、本が好きだから今の職場は気に入っている。けれどたまにあのお祈りメールの数々や、圧迫面接を思い出してはお腹が痛くなることもあった。
相変わらず親しい友人も恋人もいないけれど、自分にはお似合いの日々だと思う。
働き始めて半年、季節はすっかり秋に変わる頃、雅也は閉店前の店先でポスターの貼り替えをしていた。
あ、この作家さんの新刊予約し忘れてた。帰る前に発注しておかないとな。
そんなことを考えながら、古いポスターを剥がして新しいポスターを綺麗に掲示する単純な作業を繰り返していると、ふと隣に人が立つ気配を感じた。新品のポスターを眺めているらしい長身の男性。邪魔にならないようにと、そっと距離を置こうとしたその時に、ちらりと横顔が見えてしまって、思わず小さく声が漏れた。
「あ…、」
「…何か?」
「いえ、…っ、いらっしゃいませ。」
不審そうに見下ろされて、すぐに視線を外して頭を下げる。
そうだ。僕のことなんか覚えているわけが無い。たった1年間同じクラスだっただけの陰気な同級生だ。
だけど、僕は絶対に忘れない。忘れることなんてない。あの頃より髪は明るくなっているし、身長もあれからまだ伸びたらしい。シンプルなトレンチコートを着こなして見違えるくらいに素敵な大人になっているけど、彼だ。
どうしよう、かっこいい。
ドキドキと五月蝿い心臓の音を無理矢理無視して、剥がしたポスターを適当にまとめて足早に店内に入ろうとすると、大きな手に肩を掴まれた。
「…まさか、お前…マコト?」
一瞬だけ熱くなった体は、すぐに熱を失っていく。
何を期待したんだろう。
彼にとって僕はただの、名もないクラスメイトAに過ぎないのに。
「なあ、マコトだろ?」
それなのに、分かっている筈なのに、何度も彼に問い質されて、浅ましい僕は馬鹿みたいに少しの可能性を期待して頷いたんだ。
大嫌いなあの人の代わりでも、愛してもらえるかもしれない、なんて。
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