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8《終》
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統もシャワーを浴びて、2人並んで大きなソファに座って話をした。2人の間には、一人分の距離。とてもじゃないけれど近くになんて座れない。
「…僕は、大河眞人くんじゃないの。統…くんは覚えてないと思うけど、中学2年生の時に同じクラスだった有川雅也なの。あの日、お店で再会した時に…嘘、ついたの。ずっと嘘をついてたの。」
膝の上で握った拳を見つめながら、声が震えていくのを感じた。
だめだ、泣くな。
泣くなんて卑怯だ。
「どうしてそんな嘘をついた。」
「…僕は、」
好きだから、なんていう資格はない。きゅ、と唇を噛んで黙り込むと、統の長い指が雅也の喉元を撫でた。
優しい指は、そのまま顎を掴み強制的に視線を合わせられる。
「雅也。」
切れ長の瞳に見つめられて、こくりと喉が鳴る。
「教えて。どうして、そんな嘘を?」
心地よく響く低音に問い詰められては、もう逃げ道はない。
「…っ、す…きだった…ずっと、だいすきだった…ッ。でも、本当の僕じゃ愛されないからっ!どうしても貴方に、貴方の近くにいきたかった…!」
雅也は半ばヤケクソで、思いの丈を一気に捲し立てた。
下手な言い訳を並べたところで、どうせ結末は分かりきっている。
雅也の言葉に、驚いたように目を見開いた統はたっぷり間を開けてからぽつりと零した。
「馬鹿じゃねーの。」
そして小さな溜息を吐いて、長いまつ毛が揺れる。
嗚呼、これで終わりかと覚悟を決めたところで、想像もしていなかった言葉が耳に入ってきた。
「ごめん、俺も嘘ついてた。本当は知ってたんだ。雅也だって。」
「え…?」
知ってた、って…?バレてたってこと?
雅也の顎から手を離した統は、呆然としている雅也の腰に両腕を回してぎゅっと抱き着く。
「そもそも、マコトと雅也は全然違う。似てるとこなんてない。」
右肩にぐりぐりと額を寄せながら、たどたどしく話す統。その姿は、今まで見てきた統よりも随分幼く見える。
「でも最初は本当に見間違えて…。何回か会ううちに違和感に気づいて。思い出した。忘れてなんかない。有川雅也。静かで、純粋で、いつも一生懸命だったクラスメイト。面倒な係押し付けられても、テストで赤点取っても、運動が苦手でも、全部頑張ってたの俺だけが知ってた。」
次々と出てくる信じられない発言に、呼吸するのも忘れてしまいそうだった。
まさか、僕なんかのことを覚えてるなんて。
「再会してからも、くるくる表情が変わって、ちょっと抜けてて、放っておけなくて。気付いたらお前に夢中だった。だけど、あまりにも必死に隠してるみたいだったから言い出せなくて。」
「だって、だって…大河くんは…?」
「とっくの昔に振られてたし、そうじゃなくても今はお前しか見えてない。」
「うそ…」
こんな夢みたいな都合のいい話あるわけない、と雅也は首を振る。
「嘘じゃない。」
統が、ゆっくりと顔を上げる。
誰もが見惚れる綺麗な顔は真っ赤に染まっていて、鼻の奥がツンと痛んだ。
あ、だめだ。また泣いちゃう。
「好きだ。」
目じりから落ちた涙を、今度は統の唇が受け止めた。顔中にキスの雨を降らせる統は、何度も「雅也」と愛おしそうに名前を呼ぶ。
その度に涙がまた溢れる。
「やっと名前で呼べた。」
目の前で、幸せそうに笑う統。
「もう、逃げないで。本当の雅也を知りたい。俺も嘘ついててごめんな。」
そう言って絡めた手に、ちゅと吸い付くようにキスをする統。
全てが夢みたいで、次から次から溢れる涙はまだ止まらない。
だけど落ち着いたら、僕ももう嘘なんか吐かないで本当の気持ちを伝えるから。
やっと繋がった2人の糸を、もう離さないで。
例え嘘から始まっていたとしても、本当の恋物語を、これからずっと2人で紡いでいこう。
騙しあい(完)
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