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act.1
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色香を放つ男、正義もまた、ここスランバー界出身であった。
かつてネズミの姿であった正義は、その中でも蒼く光る尻尾と桜色の瞳が他のネズミとは違い、その容姿から常に一目置かれていた。
その容姿で宴に参加し、神をも虜にしてこいと、界域のモノたちに後押しされて不本意ながら参加した宴。
仲の良い丑と共に向かうことになったわけだが、このふたつの生命。とんでもなく呑気な気質であり、気儘に出発したのは良いが日取りを間違えて早々と宴に到着してしまったのだ。
本来ネズミとは姑息でずる賢いモノが多いのだが、この正義。幼少期から丑と交流を持ち過ぎてその気質が似てしまったのか、他のネズミと比べて大層呑気で気も長く、損得勘定がほぼ出来ない男に育ってしまっていた。
宴会場に着いたや否や、急に反芻を起こして吐き始めた丑のせいで、乗っていた頭から振り落とされたネズミの正義は、その降り立った場所が丑より早かったという判断をされ、当初定めた干支という年月で一番初めを担うこととなってしまったのだ。
この本人、一番を担う事にも無頓着で、それに反感を覚えたものも少なくない。されど界域に帰れば一躍英雄のような扱いとなり、神の界域へ向かう際は盛大にお見送りされていた。
見送られていた時は温かかった皆の態度も、今となっては掌を返してくる。それも当り前だと正義自体が気にもしていないのは、人型に変貌した正義があの正義だとわかるものがあまりいないと言うこともあったのかもしれない。
「まささんが帰って来てること、段々噂になってます。此処から出た方がいいかもしれませんよ」
「住み難い世の中だな……おかんむりなのは天道様たちだ」
「わかってますよ、俺は」
「フクロ、お前まだ飛べるのか」
「いや……この姿になってからは飛べないです。残念ですけど何も力になれません」
このフクロと呼ばれる少年は元来、梟であり、彼もまた天満の力を浴びてしまって中途半端に人型になってしまった生命であった。
羽を怪我してスランバーに堕ちてしまったフクロをネズミたちは恐れ近付くことをしなかった。それもそのはずで、正義たちネズミは彼に捕食されてしまうのだから、自ら自殺行為に当たることなんてする必要はなかったのだ。
しかしここで登場したのが変わり者の正義。正義は幼い梟を手当てし治癒した。周りには殺されると非難罵声を浴びたが、元気になった幼い梟は正義をはじめとしてネズミを1匹だって食べやしなかった。それどころか、正義に懐き、飛び回って食料を確保してくる忠誠っぷりで周囲を驚かせた。
正義はこの名のない幼い梟を“フクロ”と名付けた。
昔馴染みの物知りな知人が、その生命は「梟」という種族だと教えてくれたから、福(幸福)を沢山詰め込んで幸せになれと願いを込めて少年を“フクロ”と呼んだ。それがその時のフクロには通じなくても、その音を感じ取ってフクロは嬉しそうに鳴いていた。
「これから、どうするつもりですか」
「どうするもなにも……天道様も故郷も受け入れてくれないのなら渡り鳥ならぬ渡りネズミになるしかないなぁ」
「誰がそんな呑気なことを言えと……って、まささん?」
フクロが呆れ返っていると、頬杖をついてぼんやりと考え事をしている様子の正義が突然頭を抱えて呻きだした。
慌てふためいて正義の周りを右往左往していると、まるでうわ言のように正義が独り言を呟きだしたので、フクロはギョッと身体を引く。その目がいつもの桜色ではなく、黄金に輝いて居たからだ。
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