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act.2
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「光虫を食べたんだ」
光虫とはこの界域のみに生息する昆虫で、主に光を放ち飛び回るモノ。光虫そのもには害はなく、触れてもなんら問題はないが、それを口にすると必ず死に至る猛毒を持っていた。
そのことを先祖代々受け継がれてきたこの種族で誤ることなどあるわけがなく、それほどまでにその日、此処が混乱で満ちた事だけは全く関与していない正義ですら理解できた。
「それは……どのくらいの数だ」
ゆっくりと顔をあげた優の表情は穏やかで、辺りは続きの言葉を待つように静まり返った。
「約、八割」
その数字は驚愕的だった。この世界の中でも少数派に属さないポーテアオ界、その国の大半が自らトチ狂い自害したという現状。それは、今まで誰ともすれ違うことのなかったことを納得させるには十分すぎるほどの結果だった。そして、そのことが此処へ辿りつくまでに感じた嫌な思案が尋ねてもいないのに必然的に正解だったという回答にもなってしまった。
ひとつ深く息を吐き、優の肩を掴み引き剥がした正義は、走ってきた道中へ振り返り僅か湿った地面に片膝を付く。そして左手を胸にあて、右手にキスをして地面へと手を添える。これは正義の界域での黙祷を意味する行為であった。
それを知る優はその正義の姿に再び涙を落とし、正義の背に手をあて精一杯の感謝を口にした。
「それで……他の二割のモノは?」
優が居住するスペースへ招かれた正義は、藁が編み込まれた御座の上で胡坐で座り優へと注意を注ぐ。
光の粒がキラキラと揺らめく水の入った青いカップを正義に差し出して、優もその向かいへと膝を抱えて座り込む。受け取ったカップを回し揺らすと光の粒が浮かんだり沈んだりして、その度に角度を変えてきらりきらりと光を放って正義の瞳を射す。その正義の瞳に映った光を見て穏やかに微笑みを浮かべる優。
「眠って貰ってる」
ゆっくりと指を向けた先は池。正義はぎょっと目を見張って池と優を交互に見合わせているのに、対照的に優は穏やかな微笑みを浮かべたまま。ゆっくりと緑のカップを傾けて静かに水を飲む優、少し濡れた唇の黒子が動く。
「この姿になってから不思議な力を身につけたでしょう?あれ、天道様に効くものだと思ってたら、どうやら地上のモノにも効くらしくて。みんな動揺してたし、僕の言葉なんて誰も聞いてくれなかったから……物は試しだったんだけどうまくいって。ノアさんに協力を依頼してみんなには水底で眠って貰ってる……正義、僕はこの界域の平安を取り戻したいよ。スランバー界だって狂ってしまっているのでしょう?」
穏やかな微笑みは僅かに歪み、その口から出る声色は悲痛を彩っていた。ずっと絶やさずにいた笑みは去勢でしかなく、優の心は今、深いところまで痛めつけられていたのだ。
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