アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
act.2
-
「天道様、もうお眠りになられないと天満様が地上でお勤めが出来ませんよ」
―――天界。それはまだ、天道と天満が仲睦まじい姿を皆に示し、世界は幸福に満たされていた頃。
「優、もう少しだけいいではないか。なあ、天満もそう思うであろう」
「天満様に甘えてはなりません、天道様。さあ、此方へ」
子供の我儘のように駄々を捏ね、天満に擦り寄る天道。それを引き剥がして夜を迎えさせる勤めは牛である優の勤めだった。
その役割のせいか、天道は優の姿を見ると、いつもその端正な顔を歪ませて拒絶をする。それももう慣れたことだと穏やかな口調と優しい手付きで天道を扱う優は正に適役だと評判が良かった。何より天道自身もそんな優を気に入っていて、駄々を捏ねるのは構ってもらうまでのアクションでしかなく、またその姿に天満が笑顔を浮かべるというお決まりの流れもお気に入りだった。
「ああ、もう仕方があるまい。また、朝陽と共に迎えに参る。それまで精進せよ天満」
「偉そうに……その時はちゃんと朝の勤めが全うできているか見届けて進ぜる、天道よ」
愛故の減らず口がなくならない天道を天満から引き剥がし、甲斐甲斐しくその去りゆく姿を最後まで見守る天満に優が一礼をすると、天満の側近である善が迎えに来て、天蜜もまたその場を離れていった。
「天道様、ゆっくりと眼を閉じてください」
「閉じたところで眠れぬものは眠れぬ、毎夜言わせるでない。早うしろ」
強い眼差しを優には向けずに上を見たまま寝床へ横たわる天道に気付かれぬように溜め息をひとつ。天道は自ら眠ることが出来ず、極限に追い込まれたときのみ気を失って倒れる性質で、そのことで漸く睡眠を取ることに側近を得る前は天満も世話を焼いていた。
世界の均衡を保つためには、天道の安定した睡眠が絶対的な最優先事項であった為に、本来は天満の側近に付くはずだった優は天満から授かった力を持って天道のお傍付けとなった。
「此方の気持ちの問題です……察してください……」
困ったように眉を下げつつも朗らかな微笑みを浮かべて優は天道の視界を掌で覆い隠す。そして静かに天道の顔へ影を落とし―――そっと、唇に触れる。すると、天道は途端に穏やかで規則的な呼吸を始め、優が手を退かすと瞼を落とした端正な天道の寝顔が顔を出す。
やれやれ、と溜め息をついて天道の寝姿を整えたところで優の背後から気配を暗示させる空気が流れる。
「天道様はお眠りになられたのか?」
その気配は天道の一番の側近である正義で、朝の勤めを全うさせるために確認をしに訪れたようだった。正義の顔を見ては琥珀の瞳が揺らめき、図体に似合わない笑顔を浮かべて立ち上がる優へ疑問の眼差しを向ける正義。それにはお構いなしに抱き付いて正義の首筋に何度も口付けをする優。
本来、優が身体の何処かに唇を触れさせると生命は誰しもが深い眠りについた。最も即効性があるのが唇なようで、天道には病む終えずその手段を取っているのだが、この優はそれを日々苦痛に思っていた。
優の界域では、唇と唇を触れ合わすのは生涯を共にするただ一人だけとされており、それを勤めとはいえ天道にしなければならないことを恥じと想い、そんな自分に心を痛めていた。それを知る昔馴染みの正義は、わかっているからこそなのか、毎夜必ず確認をしに来るのである。
「……ふっ……」
「泣くな、勤めだろう。お前にしか出来ない勤めだ」
正義の首筋に口付けるのは優の敬愛の証。優の界域では個々が密に関わり合うが故に、好意に対しての執着心が強かった。そんな優が明日も勤めを全うする為に必ず行う行為。何故か口付けをされても全く睡魔が呼び起されない正義はもうその行為に慣れてしまっていて、そんな優の背を撫でては気持ちよさそうに眠る天道の顔を眺めていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
12 / 13