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社員用のテラスに座り、さっき買った卵のサンドイッチの先っちょを少しだけかじる。
ここは食堂から遠いこともあり、人気はなくかなりの過疎状態だ。僕にとってはかなりの好都合だけれど。
ここでぼーっとするのが好きだ。何も考えずにただここからの雑多な街並みを眺める。
そして時たま本を読んだりする。
暗い話は嫌いだ。それがまるで自分みたいで惨めになるから……。
「奏さん!やっと見つけた!」
突然、後ろから誰かが言った。僕にはそれが誰だか分かった。“奏さん”なんて呼んでくれるのは彼だけだ。
「音原くん…お昼ご飯はどうしたの」
「あれですか?行くわけないですよ。僕は奏さんと約束してましたし。逃げてきました」
彼はそう言って苦笑した。
「よくここが分かったね。君は新入社員でまだこの会社のことよく知らないだろうし、そもそもここは人目に付くような所じゃない」
それに、なんで音原くんは僕との約束を優先したんだろう?お人好しなのかな。
田中さん達と一緒にご飯食べた方が、絶対楽しいのに。
僕なんかと食べたって、何の得にもならないのに。
「ええ。でもなんとなく、人の少ないところだろうなぁとは思ってたんです。で、人気の少ないところを探していたら、ここに辿り着きました」
音原くんは僕の向かい側のイスに座った。
「奏さん、お昼それだけですか?」
僕のサンドイッチ一つを見て驚いたように言う。こくりと頷くと、彼はビニール袋の中からいくつかおにぎりを取り出した。
「どれがいいですか?」
「え…」
「なんでもいいですよ。お好きなのどうぞ」
「い、いらない」
「なんでですか?」
「だって足りてるし…」
それにやっぱり他人に借りをつくるのには抵抗がある。音原くんが今どう言う気持ちで僕にそう言ってるのかも分からないし、まだ信用できない。
「お昼ご飯にサンドイッチ一つはさすがに少なすぎますって。はい、では鮭をどうぞ。返品は不可ですからね」
有無を言わさない調子で僕の手に鮭のおにぎりをポンと置いた。
すると、なんだか心がジーンと暖かくなった。こんなのは、久しぶりだ。不思議な心地がする。
「ありがと…」
「へへ、どういたしまして」
音原くんは優しく微笑んだ。
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