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エントランスに着いた。
「あ、ありがと…!」
じゃあ、と手を振って歩いて行く田中さんの後ろ姿に、僕は言った。
扉を開けて外に出た。
磯の匂いがすうっと香った。
綺麗な青色の海が眼下には広がっていて、日差しは強かった。旅館の前には坂があって、そこを下って僕は手入れの行き届いた芝生を横切り、白いペンキが剥げたベンチに、腰掛けた。
そこに人の気配はなく、ただ、波の音と木々が風に吹かれる音だけが聞こえた。
僕は長い間そこにじっとしていた。
だんだんウトウトしてきて、瞼が重くなってきた。
「ふわぁ……」
大きく欠伸をして、僕はゆっくりと目を閉じた。
「…さん、奏さん」
優しく呼ぶ声で目覚めた。
目を開けるとそこには音原くんが立っていた。
「探しましたよ。
さ、もうすぐお昼ご飯ですから、宴会場に行きましょ」
「おはよ…もうお昼なの…?」
「ええ。随分気持ちよさそうに眠ってるから、起こすのは気が引けましたが、お昼を食べたら旅館から引き上げるので」
さぁ、と言って彼は僕に手を差し伸べた。
前にも音原くんに手を差し伸べてもらったことがあったっけ。僕はその時、彼の手を払った。
でも今は
僕は何の迷いもなく、その手を取って、ベンチから腰を上げた。
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