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魔術師と使い魔②
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朝日が街を完全に照らし出す頃、ビルの一角のリビングでは爽やかな朝に似合わない情事が行われようとしていた。
オークション会場から助けてやり保護した赤毛の青年【田中宝】を、自警団組織【天剣】の警官【キルシュ】がリビングのソファーに押し付けまさに今食わんと欲す状態だった。
「な?言ったとおり昨夜のお前は、そりゃあ俺の手で可愛くアンアン乱れてたわけだ。まだ突っ込んではいないが」
「アンアンなんて乱れてない!え、エッチ!!!」
「エッチって・・・お前、童貞か」
「関係ないだろ!ヘンタイ!変質者!人さらいー!イダあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
もっと言いたい事がある宝の抗議の言葉は、キルシュのアイアンクローで遮られた。鍛えられた腕力は常人より馬鹿力なので気を失うほど痛い。
「お前、大人しそうなくせにウルサイ。その口に俺のぶち込んで黙らせるぞ」
「ひいっ!!!??」
「いい拾い物したと思ったが見込み違いだったか。やっぱダンボールに入れて捨ててくるか」
「ご、ごめんなさい・・・捨てないでください、せめてダンボールはやめてください」
「まぁいい」
ぐう~
場の雰囲気を壊すように宝の腹から盛大にお腹の空いた音が鳴ると、キルシュは呆れてアイアンクローを離す。宝から身を起こしてテーブルに無造作に置かれていたタバコを吸い始めた。
どいてもらって安堵した宝も起き上がりソファーの端まで寄ってはだけたシャツのボタンを締めようとすると、また名前を呼ばれた。
「宝、どこ行く。こっちに来い」
「え・・・、う、はい」
さっきまで怒っていたのに呼ばれた意図が不明だ。シャツをぎゅっと握りしめながらおそるおそる隣まで移動する。
「はぁ・・・やっぱりダンボールに捨てられた方がマシだったかな。それよりあの時いっその事死んで・・・っ!」
いきなり胸ぐらをつかんで持ち上げられそのまま無言でベランダまで移動すると、縁から半身を出される状態になる。手を離されたら確実に落ちる。
「ひぃ!!!な、なにするんだ!」
「選べ、ここで死ぬか俺と生きるか」
「なにその理不尽な選択肢!?」
「はい、3秒やるから選べ。いーち、にー・・」
「い、生きる!あんたと生きる!」
「OK。仕方ないから奴隷として置いてやろう、よしよし」
「ええー!」
まったく意味不明な生死の選択を迫られたうえに本気で死ぬかと思った脅しに平凡に生きてきた宝には理解できない。この男には、どっと疲れる未来しかない。とりあえず宝は一命をとりとめ、またソファーに座らされた。キルシュは相変わらずタバコを吸っている、この男何本吸うつもりだ。
いそいそとシャツのボタンを締め無言の空気が流れるなか、リビングを見渡してみる。それほど散らかってはいないが服やら雑誌やらタバコやら、よくわからないの物がその辺に散乱している。
片付け苦手なのかな
宝はさっきまで殺されそうになったのに妙に落ち着いている自分を褒めてやりたい気分になった。
「宝」
「っ、はひ」
「ちょっとシャツ脱げ」
「え、イヤです!ぅぅぅぅダダダダ!」
宝の即答の拒否に再びキルシュの、アイアンクローによる制裁が行われる。まだ腫れてる口元の殴られた跡を狙わないのは、もしかしたらキルシュが気を遣っているのかもしれない。
「脱げ」
「・・・うぅ、はい」
しぶしぶとシャツを脱ぐと哀れな裸体が再び晒される。ソファーからテーブルの離れた位置に立たされる。宝はまた何かされるのかと内心怯えた。そんな宝を他所にキルシュも前に立ち、右手を喉元に触れない間隔で伸ばす。触られると思い一瞬ビクッとした宝を、キルシュは少し笑った。そして口を開く。
「我が血と肉と魂は汝を縛る鎖。我は汝の糧となり、汝は我の魂となる。古の魂の盟約により汝を我の使い魔として使役する。その盟約が果たされた時我は汝に全てを託す」
謎の言葉を発すると、床が光り赤い魔法陣のような物が浮き上がって来た。そのまま二人は光の輪に囲まれる。その光輪はだんだん狭まり宝の首元サイズになるとそこで弾けた。眩しくて一瞬目を瞑るが、開くとさっきまでのリビングがあった。魔法陣も光輪もないが、首元に違和感があった。
宝の首元には、銀色の細い鎖が巻かれていた。首元を一周し真ん中から中途半端に垂れている。
「な、なにこれ」
「使い魔の拘束具」
「?」
「喜べ、お前は今日から俺の正式な使い魔だ」
「???????」
キルシュは満足そうに宝に巻かれた鎖を触っている。一方宝はファンタジー全開な様を見せられて裸で放心状態だ。
使い魔ってなんだ・・・
「あ、そうだ。腹減ってただろ、小遣いやるから何か買って来い。あとお前の服も」
キルシュはサイドテーブルからガサガサと黒いカードを取り出す。それは電子カードで、紙幣の代わりに通貨となるいわゆる電子マネーだ。一般市民は水色だが、主に金持ちは黒い色をしている。宝も初めて生で黒カードを見た。キルシュは金持ちだろうか。そんな高額なカードをポンッと躊躇わずに会ったばかりの他人に手渡すキルシュの適当さに、実は貧乏な宝の感に触った。カードをぶん投げて怒った。
「あんた、もっと金を大事にしろ!他人に渡すな!無駄遣いするな!老後に備えろ!あと部屋片付けろ!」
宝は息を荒げて怒る、そして我に返って青ざめた。このドSを怒らせたら何をされるか・・・。だがアイアンクローは飛んで来なかった。キルシュは宝の頭をポンと撫で、落ちたカードを拾う。戻って来て目が合うが、金目は鋭くはない。
「無駄遣いはしてない。お前のために使うんだから」
「え・・・っと・・・その」
「ここで生きると誓っただろう?」
「はい」
「宝、ここで生きるために食い物と服を買って来い。命令だ。安心しろ、その鎖はまぁGPSみたいなもんでお前がどこに居るのかわかるし、何かあれば知らせが来る」
「なにそのファンタジーハイテク機能」
「説明が面倒くさいから、以下略。適当に俺の服着て、早く行け」
それ以上は本当に面倒くさいのかキルシュは風呂場へ向かって行った。真っ裸で置いてけぼりくらう宝は、まず寝室のクローゼットからかろうじて着れるスウェットを何回か折り曲げてサンダルを脱げないようになんとか輪ゴムで止めた。いざ玄関まで来てふと思う、このまま逃げられるかな?
「それは無理だ、バカめ」
「ひゃっ!?」
いつの間にか後ろに立ってたキルシュは宝の肩越しに小馬鹿にする。シャワーを浴びたのか髪から垂れる滴が宝の頬を濡らす。心臓がバクバクしている宝には、滴なのか冷や汗なのかもはやわからない。
「玄関の鍵渡すの忘れてたわ、持ってけ」
「ひゃい」
「あと、その鎖外せないから無駄なことするなよ」
「ひゃい」
返事がおかしい宝にキルシュは鼻で笑う。そして宝の項に唇を寄せると強めに吸った。チリっとした痛みに宝は驚くもすぐに開放された。
玄関から出て後ろ越しにドアが閉まる音がする。本当に外に出たのだ。通路の真ん中くらいの部屋らしく両隣にも部屋はあるが住んでいる気配はない。とりあえず下に降りるためにエレベーターか階段を探すと、すぐ側にエレベーターがあったので下矢印ボタンを押してみる。上がって来たエレベーターに乗ると30階までボタンがあり、最上階に居る事がわかる。1階のボタンを押してみるとエレベーターは下がって行った。
1階に着くとまばらだが人が居た。捲りまくったスウェット姿をジロジロと見られるが、居住区のためかそんなには気にされない。買い出し行くにも場所がわからないし、地図かその辺の人に声をかけてみる事にした。ちょうど側を通った赤毛に緑眼でちょっと釣り目がイケメンな特徴の青年に声をかけてみる。
「すみません、道を聞きたいんですが」
「はい?」
「この辺にスーパーと服屋はありますか」
普通なら変な質問だが赤毛緑眼イケメン青年は親切に教えてくれた。教えられた通りに店に向かい食べ物と服を手に入れた宝は、途中の公園で一休みする。黒カードを使った時の緊張感が半端なかった。小腹が空いたのでパンを齧りながら公園の人達を見つめる。
ついこの間まで一般市民として平凡に暮らしていたのに、ある日バイトの帰りに突然誘拐され売られそうになるとかあり得なかった。
「あ、母さん・・・」
突然、家に居る母親を思い出す。1週間も帰って居ないのできっと心配しているだろう。帰ろうと思いふと踏みとどまる。さっき、逃げられないと思考を読まれたのは偶然じゃないかもしれない。おそらくこのファンタジーハイテクGPS鎖は、思考を読めるファンタジーな代物かもしれない。逆に読めるなら送れるかもと思い、メールするような感じで念じてみる。
『ちょっと家が心配なので寄ってから帰ります、ごめんなさい』
特に何も聞こえないし起こらないようなので、宝は家へと足を向けるのだった。
一方その頃自宅で宝を待つキルシュはリビングで盛大に不機嫌だった。実は宝が念じていたのを聞こえていたのだ。鎖はある意味盗聴器のようなものだった。こちらの声は送れないが。
「あいつ感はいいのに、バカだろ」
キルシュは吸いまくったタバコをいっぱいになった灰皿に押し付けると、自宅から出るのだった。
外に出た宝は自分が居る場所は天剣の警備部居住区だと知った。天剣の地区に入った事はないがなんとなく家の方向はわかるので、そのまま歩いて行く。地区を繋ぐモノレールに乗り自分の住む駅で降りると、近道をしようと狭い路地裏へと入る。
しばらくすると誰かに付けられているように感じた。そっと振り返ると何も居ない。思い過ごしかと思い正面に向き直すと、【影】が居た。
「ぁ・・・」
宝は動けなくなる。【次元の存在】、蜃気楼化した東京の内部の中に突然現れた異界の生き物。よく知られていなかった頃は都市伝説かと思われていたので存在を信じては居なかったが、目の前に居るのはもはや都市伝説ではない。影のある所を移動するので一刻も早く明るい場所へ逃げなければならない。
選べ、ここで死ぬか俺と生きるか
ふと脳裏にキルシュに言われた言葉を思い出すと宝の足が動いた。そのまま路地裏を全速力で走る。生きると誓った。それは気まぐれの誓いの言葉かもしれないが、今このピンチを抜け出す原動力だ。
宝はなんとか走るがやはり影を伝う方が早く足を捕まれ地面に倒れてしまう。
「くっそ、イヤだ!離せ!生きるって言った!あいつと!」
なんとかもがくも振りほどけない次元の存在はどんどん宝の足からはい寄ってくる。ゾワゾワとする感触が気味悪い。宝はもうダメだと思い目を瞑る。その刹那オークション会場で助けられた光景を思い出す。
目隠しを取られて最初に見たのは天使とは程遠い容姿だが、とても美しく宝にとっては救いの神だった。
「・・・さん、・・キルシュさ、ん・・」
「呼んだか」
馴染みのある低く通る声が聴こえた。目を開けると次元の存在を引き千切るキルシュが居た。
「な、んで・・・」
「お前やっと俺の名前呼んだな。まぁとりあえずこいつを何とかするか」
千切られた次元の存在は宝から離れて再び影の中に潜む。宝を庇うように前に立つとボキボキと指を鳴らす。
「俺のモノに勝手に触ったな、ゲテモノ野郎。ぐちゃぐちゃにしてやる、出て来い」
キルシュは影の化け物に不敵に笑った。
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