アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
準備は出来ている
-
飲み終えてしまったか・・・
匡が空になったマグカップをそっと静かにテーブルへ戻した。
目の端に捉えた千種の胃が、一段とキリキリ痛む。
いつもなら、飲み終わるまで何かしら二人で話していたのに、今夜は二人とも無言だった。
二人で居るのに、一人のときよりも虚しく寂しいと感じるとは。
千種はマグカップに口をつけた素振りはしていたが、やはり一口も飲めなかった。
このままこれをテーブルに戻せば、まだ飲めていないのかと察した匡が話を・・・飲み終わるまで別れ話を待ってくれるだろうか。
こんな気まずい状態でも、この家に匡が来るのは最後かもしれない。
そう考えると千種は少しでも延ばす方法を考えてしまう。
匡と過ごした一年を、これきりで終わらせたくなかった。
「あの、千種さん、お話があるんです」
匡が崩していた足を正座に変え、姿勢を正して見つめてくる。
その、真剣で強い眼差しに、千種の喉の奥がグッと締まった。
遂に、宣告のときか。
セフレと別れるときは、すぐに了承する。
どんな言葉で別れを切り出されても、自分が返す言葉はたった一つ。
ーーー今までありがとう。
これを口に出す心の準備は。
微笑みながら別れる準備は。
今目の前にいる匡だけじゃなく、これまでのセフレとそういう関係になった瞬間からしてきたし実行して来た。
千種は観念し、マグカップをテーブルに置いた。
「千種さんみたい」と匡から贈られたアビシニアンの写真がプリントされたマグカップ。
「同じ作家のシリーズだから、最初から揃えたみたいですね」と、その時言われた何気ない台詞も表情も鮮明に覚えている。
長年使っていた無地のマグカップ。
今は棚の奥に追いやられているが、捨てずにおいて良かった。
セフレと別れたら、渡せなかったものも思い出に関わるものも全て捨てると決めている。
このアビシニアンとも今夜でお別れだ。
千種は小さく息を吐き、匡に合わせて姿勢を正す。
その強い視線から目をそらすまいとグッと眉間に力を込めた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
6 / 10