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高速道路の長いトンネルを抜けると、まばゆく陽光を反射させる海が左手の山間から覗いていた。雪斗は成人して二年経っても愛らしさの抜けない、黒目がちなアーモンドアイを輝かせる。
「海です……!」
思わず助手席のパワーウィンドウを下げ、勢いよく流れていく風の中に潮の香りを探して鼻をひくつかせた。
チョコレート色の髪が肌を叩いても気にせず、もう一度「海です」と笑う。
「嬉しそうだね」
笑いをこらえるような声が聞こえ、慌てて窓を閉めた。
シートに座り直した雪斗は、ハンドルを握る冬弥に小さく頭を下げる。
「すみません、勝手に開けてしまって」
「構わないよ。だけど乗り出さないでね、危ないから」
まるで小さな子どもに諭すみたいだ、と思いながらも、雪斗は素直にうなずいた。
冬弥が雪斗を子ども扱いするのは最初から変わらない。彼は雪斗より十も年上であるし、同年代の男と比べたって成熟した香りに満ちていた。
仕事の日は柔和な顔立ちを晒すように撫でつけられている黒髪も、オフの今日は額に散ってラフな雰囲気が強い。いつも穏やかに笑んでいる二重の目元も、すっと通った鼻筋も、ゆるやかに口角の上がった薄い唇も冬弥を最大限に魅力的な男性に仕立てている。
いつまで経っても男らしさとはほど遠く、人畜無害で繊細な作りをした雪斗の容貌とはまるで正反対で、羨望すらおこがましくて抱けない。
「そんなにじっと見つめられたら、僕だって照れるよ」
ちっとも恥ずかしいと思っていなそうな横顔に、雪斗のほうが気恥ずかしくなる。小さな声で「すみません」と謝る声にかぶせられたのは、甘く鼓膜をくすぐる低音だった。
「もうすぐサービスエリアがあるから、一旦休憩しよう」
「わかりました。すみません、運転……代われなくて」
雪斗はペーパードライバーだ。これから向かう旅館は少々遠いうえ、冬弥の愛車とくれば気軽に交代を言い出せない。慣れない運転で万が一を起こせば、楽しい旅行が台無しだ。
「サービスエリア、着いたらゆっくりしてくださいね。俺食べ物とか、いろいろ買ってくるので」
「心配性だなあ雪は。僕は普段からどこにでも車で行くから、片道二時間程度は問題ないって知ってるだろう?」
「そうですけど、でも、俺は隣でぼーっとしてるのに……」
「それが嫌なら、旅行になんて誘わないよ。一緒に行ってあげてる、くらいの気でいていいんだ。甘えてよ」
微笑む冬弥に、気づけば目を奪われている。
だが今度は「照れるよ」とおどけてくれなかった。
「リラックスして、楽しんで。――僕たちは、今日で最後なんだから」
雪斗が恋した優しい笑顔のまま、甘い声が、そう言った。
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