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あの日
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「お前が来たせいで、食いっぱぐれた」
「えー、俺のせい?俺のせい?」
アルコールに免疫が無い英雄は、ふらふらと覚束ない足取りで力也の隣を進む。
いつもよりやや高めの声は、気分が良い証拠。
同じ大学に進学した幼馴染。
当人よりも先に親同士が勝手に同居を決めてしまい、帰り道は同じだ。
「まぁ、女子の参加が増えたからってお前と何故か俺の会費も浮いたからいーんだけどさ」
いや、良くないよな。
なんのために参加したのかこれじゃわからない。
人寄せパンダのお世話係になっている。
「ヘヘッ、じゃぁ、得したね」
「いや、得はしてねぇよ」
「そうなの?」
「そうなのって、バカ、あぶねぇって!」
車道に出そうになった英雄に気付いて、慌てて力也がその手を掴む。
互いにアルコールを飲んだせいか、掌が熱い。
「迷子の迷子のこねこちゃん〜」
突然歌い出す酔っ払い。
けれど、何が引金なったのか分かった力也も一緒に歌っていた。
ビール一杯では酔わないと思っていたけど、そうでも無かったらしい。
初めて出会ったあの日、迷子の英雄と手を繋いで何度も同じ道を行ったり来たりしながら家を探して歩いた。
英雄の話だけ聞いていると、颯爽と現れたヒーローが助けに入りあっさり家まで送ってくれたようだがそうはならなかった。
要領を得ない英雄の記憶を手がかりに、心当たりがある方へ進んだがどれも違うと首を振られる。
不安が大きくなっても、力也は幼心に自分が頼られているのだと奮起。
この手を守らなくてはと泣きそうになる自分を必死に鼓舞してこの歌を一緒に歌い気を紛らわせて歩き続けた。
大きくなるにつれて、外でこうやって手を繋ぐ機会は無くなったけれど、今は酔っ払い。
こうして繋いでいなければ事故に合うかもしれない、仕方無いじゃないかとその手を離さず並んで歩く。
「わんわん」「にゃあにゃあ」と競うようにして鳴いていたら、面白くなって爆笑。
あぁ、良い感じに酔っ払ってんなぁ。
昔は女の子みたいに可愛くて。
よく泣いて近所でからかわれることも多かったのに、そんな過去と今の英雄は全く結びつかない。
180cm近い長身と甘いマスク。
いつの間にか身長を抜かされ、背中に隠れていた英雄を自分が目で追いかけるようになったのは中学だったか。
群を抜いて格好良く成長していった幼馴染。
あのとき、「俺はお前のヒーローだから」と言ったのは、心細いと泣いていた英雄に格好つけたかったから。
変身もできない、強くもない。
ヒーローになるための修行もしていない。
それなのについてしまった小さな嘘。
未だにそれを、本物のヒーローを地で行く英雄の口から宝物のように話されるのはむず痒い。
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