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モブ
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あの日の出来事は、英雄の中では特別なもの過ぎて美化され過ぎている。
自分がしている人助けも、「最初は身体が咄嗟に動かなかったけれど、力也だったらこんなときどうするか考えたら動いた」とサラッと言ってくるのだ。
「なんか、いたたまれないなぁ」
力也本人は、体力くらいしか取り柄がないただの凡人。
ヒーローからヒーロー視されている人間だと大学でも知られていたなんて、ますます肩身が狭くなる。
「力也はヒーローなんだから、もっと堂々としてなさい」
はぁと溜め息をついた力也に、めっと怒ってみせる英雄。
酒は抜けそうにないなと判断。
英雄の部屋にさっさと入れて寝かせてしまおう。
「善処します」
「よろしい」
「ほら、手を繋いでやるから部屋まで行くぞ」
「はーい」
ぴょこんと座っていたソファーから立ち上がる英雄。
力也の返答がお気に召したらしく、この夜一番のニコニコ笑顔。
この反応は、常日頃から力也に堂々としていて欲しいと思っていたに違いなかった。
子どものように無邪気なここまでの笑顔は、力也以外の前では見せたことが無いんじゃないだろうか。
善処するは、この場合しないと同意なんだけどなぁと後ろめたくなる。
力也は、英雄の同居人と言うだけで十分大学で目立っている。
俺みたいなモブは、お前の横に立っているだけで調子に乗るなと言われているんだぞ。
流石にそこまでは、お前に悟られたくないけどな。
英雄をダシに使いたい同性の先輩からは特に風当たりが強い。
イベントに英雄を誘っても、「力也が行くなら」と条件がついてくるからだ。
英雄本人に、「いい年なんだから、友達とどこでも一緒とかヤバイでしょ」と指摘したことで、英雄の本気の怒りモード、極寒セリフの「はぁ?」を食らった先輩はそれから姿を見せていない。
顔が整っているだけに、その威力は凄まじかった、あの顔で踏んでほしいとかおかしなことを言い出す外野まで出たと力也はあとから噂で聞いた。
喜怒哀楽の中でも、英雄は人当たりが良すぎて怒が抜けてるのではないかと思われがちだがそんなことがあるわけない。
いくら本物のヒーローでも、人間なんだから。
そう、同じ人間のはずだよなぁ?
鍵の付いていない同じ間取り、隣同士の英雄の部屋に入る。
いつ扉を開けても整理整頓は完璧で、床にも机の上にも出しっぱなしのものは一つとなくスッキリ。
ほとんど変わらない生活スタイルで過ごしているのに、自分の部屋との違いに地味に凹む。
長年一緒にいる俺でさえ、酒以外の英雄の弱点は判らない。
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