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第1話
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──高校の時からずっと見ていた。
深原基(はじめ)は、目の前のベッドに寝転がる友人、桜井俊介の寝顔を見ていた。
コンパと称した飲み会、その後の二次会の帰りに二人で基の部屋へ転がり込んで、そこから二人で三次会をした。そこで、先に潰れたのは俊介だ。
酒は基の方が強い。分かっていてガンガン飲ませた。
(……寝顔見るくらい、良いよな)
ベッドの脇で、ベッドへと片腕を乗せて振り返る姿勢で、俊介の顔を見る。
俊介の、黒髪の長めなウルフが今は乱れてしまっていた。男らしい顔つきに長身。身長は同じくらいだが、並べば俊介のほうが筋肉質だ。
そういう基も、スッキリとした立ち姿に茶髪のツーブロックのふわりとした髪質、優しげな甘いマスクで女友達に困ることはない。
しかし、基が長年……もう六年も片思いしているのは目の前の友人だった。
高校で知り合い、家の方角が同じことで通学を一緒にするようになった。
部活やクラスが離れても友人を続けて、同じ大学に進学した。
学部は違うが、実家から通っている俊介は気づけば基の1DKのアパートに入り浸りで、ほとんど二人で同居しているようなものだった。
基はそっと、指先で俊介の黒髪に触れた。
それ以上はなしだ。
自身の中でそう決めていた。この友人関係を壊したくない。
(けど、そろそろ……限界かもなぁ……)
健やかな寝息を立てて無防備に転がる友人から目を離した。
最近は二人でいるとやばいのだ。……特に下半身のあらぬところが。
いつまでも隠し通せるものでもない。
俊介に触れたい、触れられたい。
できればその体の熱を素肌で感じたかった。
(ダメ元で……)
ふと、基は思いつく。素直な性格の俊介を騙すことになるが、一縷の望みにかけてみる。
──明日、かな。
その思いつきは明日起きた時の俊介にかかっている。基はそのまま、部屋の中でぼんやりと明日のことを思っていた。
──甘い、良い匂いがする……。
ふわりと、香るコロン混じりの甘い体臭に気づいて、俊介は目を覚ました。
甘さの仲にスッキリとした柑橘の混じったこの匂いは友人の基のものだ。
(また、泊まっちまったのか……)
よくあることだった。飲み会の後にそのまま泊まる。そして、酒は好きだがそこまで強くない俊介は飲み会の後半から基の家までのことを大抵忘れてしまっている。殆どの場合、俊介がベッドを占拠してしまい、朝起きると叱られるものだが……。
しかし、今朝はいつもと少し様子が違った。
まず寝返りを打とうと身体を動かしてみても、腕が持ち上がらない。
「……ん……?」
眠気眼で目を瞬く。
「はじ、め……?」
そこにはボクサーパンツにTシャツ姿の半裸の基がいた。俊介の腕と足に身体を絡めるようにして向き合って眠っている。
その顔のアップが目の前にあった。
思いがけず長いまつげに、通った鼻筋、普段は勝ち気そうな目元は今は閉じられている。
思わず、俊介はその無防備な寝顔に見惚れた。
と、目覚めたのか、基が身じろいだ。眠たそうに絡めていた腕を俊介から解く。
「……あ? はよ」
いつもの朝のやや低めのテンションで、頭を振りながら基は起き上がった。ベッドの上で上体だけ伸びをして、あくびをする。
その基の横で、俊介はパニックだった。
なんで、半裸の友人と一緒のベッドに寝ているのかが分からない。
「なあ……俺、なにか昨夜……」
恐る恐る聞いてみる。
自身を見下ろしてみれば寝乱れてはいるが、Tシャツとチノパンだ。
当の基は、腕を上げて髪に触れているせいで下着とTシャツの隙間から腹筋がちらりと見えている。普段なら気にならない、そんなことが俊介は気にかかった。
「昨夜……? ああ、またお前覚えてないんだろ」
腕を下ろし、ニヤッと基が笑う。
あぐらをかいて自身の唇へ人差し指を当てて、わざとらしく、基は首を傾げて薄く笑った。嫌な予感に俊介はビクリとした。
「キス、したろ」
「……っ!?」
さっと俊介は青ざめた。
友人に……いや『片思いの相手』に、いきなり酔ってそんな暴挙を?
(──今までひた隠しにしてきたってのに……酔って、そんな……)
最悪だった。
ひたすら友人のふりをして何年も経っている。
高校の入学式での一目惚れだった。
クラスは違ったが、その存在が最初から目立っていた同級生。友人を介して友達になり、親友のポジションを獲得して、大学へ進学。こうして今や家にも入り浸っている。
──それなのに、意識のないうちにキス?
(何って……もったいない……)
ベッドの上で天を仰ぎそうになるのを俊介はグッと堪えた。
そんな俊介をどう思ったのか、基はひらひらと手をふる。
「気にしなくて良いって。まあ……何回もチューして、ちょっと良い雰囲気にはなったけど」
サラリとすごいことを伝えられる。
「……マジか……」
俊介は一層青ざめた。一方の基は本当に気にしていないのか淡々と答える。
「マジだな。何か……そういう雰囲気になって、お前から。けど、お互い合意だから気にすんなって。それ以上は何もしてねぇし」
それより、飯食わねぇ? などとベッドから立ち上がる基の、下着姿の下肢が目につく。すらると伸びた足と、チラチラと見え隠れするその足の付け根。
(俺が、基と……キスした……?)
ぎゅっと拳をシーツの上で握る。本当ならこれはチャンスじゃないか?
幸い、基は嫌がっていない様子だ。
ギシっとベッドを鳴らして俊介は立ち上がった。
キッチンへ向かっていた基が何? と振り返る。その体へ腕を伸ばして正面からそっと、抱きしめた。
「あの……それならさ……責任とるっつうか──……」
「はぁ!?」
「いや、お前が嫌じゃなければなんだけど……責任とらしてくれ」
腕の中で硬直する身体を、突き放されないようにと祈りながら、俊介は基を抱きしめた。
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