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第2話
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予想外の反撃に、基は固まっていた。
それから一瞬後に顔がにやけそうになるのを堪える。
(何こいつ……チョロっ……)
自分の好きな相手にそんなことを思ってしまう。
表情を隠すため、腕の中で思わず手に口を当てると、拒否されたと思ったのか、俊介が一瞬怯んだのが分かる。
ここで焦ってはいけないと、基は息をついて冷静にと自分に呼びかける。そろりと反論してみた。心臓はバクバクと鳴っているが、冷静を装う。
「いや、お前……責任って女子じゃないんだし。てか、最近は女子でもキスひとつでこんな──」
「俺に責任取られるの、嫌か……」
抱きしめてくる腕を緩めて、がっかりしたように俊介が言う。
「……っ……嫌、じゃ……」
二人の間に奇妙な沈黙が落ちる。基は恥ずかしかったが小さく、答えるしかなかった。
「嫌じゃ、ない……」
答えると、ホっとしたように俊介が抱きしめてきた。
「良かった〜……」
脱力したように、耳元で囁かれる。
(しかし、なんでこいつ……こんな責任取りたがんだ? 真面目かよ)
首筋に顔を埋めてくる俊介の、犬のようなそんなところが可愛い……と考えてまたはっと口を塞ぐ。駄目だった。気を抜くとニヤついてしまう。
どうにか余裕ぶって、俊介の肩に顎を乗せた。
「しかし、責任取るってもさ。……どうやって?」
ついぶっきらぼうに聞き返してしまう。抱き返すのではなく、俊介の背へと腕を回してトントンと背中を叩いた。
「う〜ん……」
俊介は基を抱きしめたまま、考えているようだった。腰の下辺りに俊介の拳が当たっている。
基はそろそろこの姿勢が恥ずかしかった。なんと言っても自分は下半身は下着姿だ。
「──付き合う、とかは?」
ぼそりと、俊介が言った。
「誰と誰が」
「俺と、基が」
「……はぁ!?」
キス一つで凄い飛躍だった。
腕の中で何だかもじもじしている基を俊介は意外な思いで見ていた。どちらかと言えば、基のほうがはっきりとしている性格で、自分はそれに従うほうだ。
それが今や、俊介の腕の中だ。
この接触を嫌がってはいないらしいことは、分かる。体格は自分の方が良いが、それでもそんなに差はない。本気で嫌なら突き飛ばしてくるはずだった。
(──抱き返してくんねーかな)
そんなことを考えていると、トントンと背中を叩かれた。
だから、考えに考えて答えた。ここで間違ってはいけない。
『付き合うとかは?』
返事は予想通りだった。
(凄い、事になった……)
基は思わず俊介の背に縋って、漸く立っていた。
(ちょっと嘘をついただけなのに……俺と俊介が付き合う……?)
そろりと身体を少し離して、顔を見合わせる。
目の前に恋い焦がれた顔があった。男らしくて、笑うと少し目尻が下がって犬歯が見える、俊介の顔。今は真剣にこちらを見返してきている。
「……本気か?」
「本気だ」
「ど、どうしてそうなる」
「だって、俺がキスしたって言ったのはお前だろ?」
そうだった。
その責任から、この発言なのだ。
(ヤバく……ないか、これ)
背筋がすっと寒くなった。
そりゃ少しはこういう展開を期待して嘘を吐いた。もしくは、俊介の反応によっては、自分からこれに乗じて告白でもしようかとも思っていた。
けれど実際、付き合おうと言われてうんと素直には頷けない。
なぜなら責任感から付き合われても、虚しいだけだからだ。
「や、それは……」
思わず顔を背けた。俊介のシャツの裾を掴み、少し距離を取る。できればこの場から逃げ出したい。けれど、逃げ出せば一生こんな好機は巡ってこないだろう。
「付き合うの、嫌なのか……」
しゅんと項垂れた俊介の背後に犬が見える。耳を垂れて尻尾を下げた大型犬だ。
基は慌てた。
「嫌、つか……男? 同士だし」
「男同士で、キスしたんだろ昨夜」
「……ですよねぇ」
返事に困る。必死で頭を巡らせえるが何も思いつかなかった。
「なら、良いよな? 付き合っても」
良いんだろうか。こんな簡単に。
──嘘を吐いて、好きな男を手に入れる。
「うう……」
頷くことも、拒否することも出来なかった。
それを、俊介は諾ととったらしい。
ホッとしたように笑った。
基の好きなあの笑顔だ。
「良かった」
良くなかった。こんなに惨めな付き合い始めってない。
腰を抱いていた俊介の片手が頬まで上がってきた。そっと手の甲で基の頬を撫でる。
「………基……」
名前を呼ばれて、目線を上げる。
俊介が首を傾けて、鼻筋と鼻筋を擦り合わされた。キスの気配に、基は再度固まる。
「はじめ……」
名前を呼ばれてギュッと基は目を閉じた。
確認するように何度か肌を擦り合わせて、唇がまさに触れようというその時だった。
基は我慢できずに叫んだ。嘘を吐いたままのキスは嫌だ。
「ごめん! 俺、お前のこと好きなんだわ!」
(かっこわりぃ──……)
ぐっと拳を握って一気に言う。
けれど、これ以上嘘は吐けなかった。
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