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一輪
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「どうしてかな、キミを見ているととても懐かしい気持ちになるよ」
春が終わろうとしている。日差しは暑いがそよぐ風は柔らかく、しかしながら美術室の窓から見える桜はもう完全に散っていて、若葉で生い茂っていた。美術室の、すこしの蒸し暑さが心地いい。もうすぐ夏がくるな、と、花壇に咲いているつつじの花を見つめながら、ひたすらに筆を握る彼に話しかける。
この時間は、いい。
とても落ち着くから、いい。
「ねぇ」と、窓の外を見ていたボクは振り向いて、彼の黒くうねった髪に目を向けた。彼は微笑んでいた。柔らかい微笑みであった。
「ねぇ、ノバラ。返事をしておくれよ」
「…あぁ、なんだって?ごめんね、夢中になっていたから」
「キミは、本当に絵がすきなんだね」
粟井ノバラという人間は、とても美しい。華奢な体から生み出されるとは思えない豪快な絵はあまりにも感動的であり、とても評価が高いのだ。神童と呼ばれている、この青年は、美しい。
「晃。キミは絵は描かないのかい」
「はは、ボクは絵はさっぱりでね。」
「そう。」
「ところでキミは、何を描いているんだい?」
白く、白く、白く。こんな純白は他に見たことがない、と思わせるほど、白く、キャンバスを塗りつぶしている彼に問いかけると、「おたのしみに」と微笑まれる。
あぁ、なんだか、とても懐かしいな。どうしてキミの隣はこんなにも心地いいのだろうね。
14歳の春だった。空の青が綺麗な、綺麗な、春だった。
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