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2話
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かくして蔵屋と付き合うことになり、翌日から恋人らしいことを実践することになった。
学校でできる恋人らしいこと。一番初めに浮かんだのは、お昼ご飯を共に食べることだった。
いつも一緒に食べている友達に今日から一緒に食べないことを伝えると、案の定非難された。
「えー、勇樹がいないとつまんないんだけどー」
「そうだぞ! うるせぇ女と野球部男と3人で食べるとか鬼畜すぎ!」
「ちょ、それこっちのセリフ! なんで私があんたなんかと!」
主張の激しい二人が言い争いを始めたところで、例の野球部男子が「今のうちに早く行きな」と逃がしてくれた。彼は僕たちのグループの良心だ。
廊下で待っていてくれた蔵屋と共に、食堂へ移る。教室で食べればいいと言ったが、クラスメイトに見られるのは嫌らしい。何も、ただ食べるだけのことではないかと思うが、蔵屋の機嫌に五万がかかっているので大人しく従った。
食堂の二人掛けの席で向かい合って座る。僕が出したのは標準的な手作り弁当、蔵屋は木目の美しい丸い弁当箱で、蓋を開けると中がカルボナーラだった。僕の目玉は飛び出そうになる。そんなもの食べたことがない。それに、お昼ご飯にコンビニ弁当ではないカルボナーラなんて存在するのか。
「すごいね、お母さんが作ったの?」
「いや、専属のシェフ」
「シェフ!? 家にシェフがいるの?」
「まぁな」
彼は当たり前のように銀製のフォークを出して、お行儀よく手を合わせカルボナーラを食べ始めた。
今まで知らなかったが、彼はもしや物凄いお金持ちなのだろうか。なるほど、そうだとしたら五万の食費を報酬として当然のように約束してしまうのも頷ける。
「はぁー、シェフかぁ。そんな家もあるんだね。もしかして、朝昼晩全部その人が作るの?」
「あぁ。和食と洋食で専門の人がいるよ」
やはりお金持ちで間違いないようだ。庶民からは到底考えられないことを自慢でも何でもなく平然と告げるあたり、正真正銘のお坊ちゃまなのだろう。
僕は自分の弁当を見つめた。何の変哲もない、もしかしたら周りよりも質素な弁当。卵焼きと、昨日買った総菜の残りのきんぴらごぼう。プチトマト。一本のウインナーを二等分して量があるように見せる裏技。ごはんにはふりかけも梅干しもない。
「勇樹の弁当は誰が作ってるんだ?」
「自分で作ってるよ」
「ふうん」
興味の無さそうな声とは裏腹に、彼は僕の弁当をじっと覗き見た。取り立てて珍しい中身ではないが、お坊ちゃまの彼には興味深いのだろうか。もしかして、料理をしたことがないなんてことも……?
「蔵屋はさ……」
「それ、その蔵屋ってのやめにしようぜ」
僕の言葉を遮って、蔵屋は不満気に言った。僕は目をぱちくりして蔵屋を見つめた。この呼び方に何か問題があるだろうか。
「今は俺の恋人なんだろ? だったら名前呼びが普通なんじゃないのか」
恋人、という部分だけ小声にして蔵屋はそう主張した。確かに、先ほど蔵屋は僕のことを「勇樹」と呼んだ気がする。もともと関わりの無いクラスメイトだったので突然名前で呼ぶのは抵抗があるが、一理ある。僕は頷いた。
「わかったよ、零」
口にしてみれば案外あっさりと馴染んだ。名前呼びくらいどうってことないかもしれない。
そう思いながら次に零を見ると、彼は一心不乱にカルボナーラを食べながら、その頬を赤く染めていた。
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