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3話
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それから数日後の金曜日、その日は午前授業ということもあり午後から零と「デート」をすることになった。デートというと恥ずかしいが、本当の恋人ではないので要はただのお出かけだ。
4時間目の授業が終わり、僕は荷物を整理して席を立った。斜め後ろの零にアイコンタクトを取ってそちらに向かおうとすると、僕の手首を掴んだ人が一人。
「今日は勉強してかないの?」
そう聞いてきたのは、この間まで一緒に昼食をとっていた那奈だ。ギャル気質の彼女が僕になぜそんなことを尋ねるのか、なんとなく察しがついた。僕は両手を腰に当てて、ため息をつく。
「テストが近いからってすぐ人を頼るのやめなよね。自分で頑張れなくなるよ」
図星をつかれた彼女だが、全く悪びれる様子無くあはは! と笑った。
「良いじゃん! だって勇樹教えるの上手だしさ。もう何度助けられたことか! おねがーい、今回も頼むー」
「却下! 僕この後用事あるから」
そう言って、僕は入り口付近で待機している零をちらりと見た。
「那奈さ、勉強出来ないわけじゃないんだから、ちょっとは自分で頑張ってみな? ほら、ノートだけなら貸してあげるから」
「本当!? ありがとう! わーい、勇樹の超綺麗なノートゲット!」
「月曜日ちゃんと返してよー」
「はーい」
僕は彼女にノートを渡して、さっさと零のもとへ駆け寄った。ひらひらと手を振る那奈に振り返しながら、僕は零に謝った。
「遅くなってごめんね」
「いいよ」
零の返事は素っ気ないような気がしたが、彼はいつもこんな感じだったかとすぐに思い直す。
昇降口で靴を履き替えるとき、隣に立つ零の靴箱からひらりと封筒が舞い落ちた。零は露骨に嫌そうな顔をする。靴を履き替えその封筒を覗くと、女の子らしい文字で「零くんへ」と書かれていた。僕はすぐに、これがあのストーカー女からの手紙なのだと気が付いた。
どうするの? という意を込めて零を見つめると、彼は中身も確認せずにぐしゃぐしゃにして自分の鞄の中にしまった。
「捨てなくていいの?」
「捨てたって相手にばれたら、これ以上何されるかわからないからな。それより、今日のデートもつけられてると思ったほうがいい」
「えぇ!?」
深刻そうな顔で言うので、僕は怖くなって辺りをきょろきょろ見回した。怪しい人影は見当たらないが、どこかにいるのだろうか。
すると、突然零が僕の肩をぎゅっと抱き寄せた。その強引さに不覚にもドキリとし、僕の心臓は早鳴った。彼より身長の低い僕の顔の前には零の首筋がある。夏で汗をかいているはずなのに、零からは柑橘の良い匂いがした。
「ばれるようにストーカーやってるわけないだろ」
戒めるように言う零の手がわずかに震えていることに気が付いたのは、そのすぐあとだ。彼もストーカーが怖いのだろうか。それならば僕も恋人同士の演技に協力しよう。そう思って零の腰に手をやると、彼はびくりとして僕の肩から手を離した。僕もそれに驚き、彼から離れる。零は僕を見て固まった。
「ど、どうしたの?」
緊急事態発生だろうか、そう思い慎重になると、彼はハッと我に返ったようになり首を振った。
「なんでもない」
様子のおかしな零は、その後繁華街に入るまで一言も喋らなかった。
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