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6話
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学校から一番近い喫茶店に入った。零は店を選ぶ余裕すらもなく、僕が全部選んだ。だから注文も、一番安いコーヒー二つ。
僕たちは向かい合って座ったが、零は一度もこちらを見なかった。そこまで項垂れられると、まるで僕が悪いことをしているみたいだ。僕は怒っていない。ただ、理由を知りたいだけ。
「零、教えて。どんな理由でも、零を軽蔑したりしないよ。もうこんなに関わって、零が悪ふざけするようなタイプじゃないってわかってるんだから」
そう言うと、彼はやっと顔を上げた。そして、何度も言おうか言うまいか躊躇うように口を開閉させた。僕はもう促すことなく、彼の言葉を待った。
何度も躊躇した後、彼は一度ぎゅっと目を瞑ると覚悟を決めたように口を開いた。
「勇樹のことが好きだったんだ」
僕はその瞬間、自分の胸が高鳴ったような、凪いだような不思議な感覚に襲われた。零は続ける。
「同じクラスになってから、ずっと気になってた。でも、俺話すの得意じゃねえし、お前みたいに誰とでも仲良くできるような人間じゃないから、どうすることもできなくて……。でも、どうしても近づきたかった。だから、嘘、ついた。……ごめん」
零はテーブルにつきそうなほど頭を下げた。
「俺、ゲイだから……。でも、告白したら引かれるのわかってたし、現にさ、キモイだろ?」
零は自嘲的に言葉を連ねた。まるで自分の胸が裂かれたような痛みが、僕を襲う。そんなことないと首を横に振っても、彼は受け取ってくれなかった。
「騙してごめん。金は、渡すから」
そう言って僕の前に出されたのは、約束の五万円が入った茶封筒だった。彼はもう一度「ごめん」と言った。
「もう、関わらなくていいから」
早口にそう言って、彼は逃げるように立ち上がって行ってしまった。僕の「零」と呼ぶ声はあまりにか細いものだった。
手つかずのコーヒーが、テーブルに二つ。僕の目の前には空虚な五万円。
僕には悲しみと同時に、逃げ出した零に対して怒りが湧いてきた。僕の気持ちなんて一切聞かないで、去ってしまった零をとっ捕まえて、説教してやりたい気分だった。僕の初恋を奪っておいて自分だけ逃げだすなんて、許さない。
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