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7話
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翌日の昼休み、零は案の定僕を誘わなかった。僕はそれにすらイラっとして、那奈達に断りを入れて零のもとへ駆けた。
「ちょっと」
「えっ、な、なんだよ」
零の腕を掴んで、目指すは屋上。僕はそこで、彼と決着をつけるつもりだ。中途半端にされた恋心をどうするかの決着だ。
空は真っ青に晴れて、屋上にはぬるい風が吹いていた。僕は零と対峙した。彼は判決を待つ罪人のような面持ちで俯いている。僕は腹に力を込めて、叫んだ。
「馬鹿!」
その声は想像よりも大きく、遠くの山まで木霊したようにすら思えた。目の前の零は、その大声に呆気に取られている。
「馬鹿、馬鹿、馬鹿! 何がごめんだよ! 何がキモイだよ! 僕の気持ち聞かないで、勝手に自己完結してんじゃねえよ!!」
自分でも驚くほどの汚い言葉遣いが思わず飛び出る。しかし僕の怒りは収まらず、どこへ投げようもなく地団駄を踏んだ。
「嘘ついてたのも騙してたのも怒ってないって言ったじゃん! 何言われても軽蔑しないって言ったじゃん! それなのに、僕が責めてるみたいに言って逃げてさ! 零がゲイだとか嘘ついてたとかどうでもいいよ!」
僕は零に近づいて彼の胸倉を掴んだ。
「僕は零が好きなんだから!」
感情の爆発が涙を誘発した。悲しくもないのに、涙が溢れる。いや、悲しいのかもしれない。零が自分自身を軽蔑していることが、悲しいのかもしれない。だから僕は今、必死でこんなことを言っているのかもしれない。
彼の本当の気持ちを聞くには、僕の本当の気持ちを伝えないと駄目な気がしたから。
僕はポケットから茶封筒を取り出すと、それを零の胸に押し付けた。
「お金なんていらない。いらないから、僕のこと本気にさせた責任取ってよ……。そのくらいの誠意見せてよ。僕のこと、好きなんでしょ」
零の胸を叩くと、おそるおそるという風に、彼の腕が僕の背中を抱きしめた。初めてのハグに、僕はこんなときですら幸福を感じていた。
「好き、で良いのか? 恋人のフリじゃなくて、恋人になってくれるのか」
「……さっきからそう言ってる」
零の胸に顔をうずめているせいでくぐもった声が出る。その僕の頭上では、ずびっと鼻をすする音がした。ようやく顔を離し見上げると、零は口に片手を当てて目を真っ赤にして泣いていた。それは僕をはるかに凌駕する大号泣だった。
「零、大泣きだね」
「勇樹も泣いてる」
僕らはお互いの顔を見て笑いあった。そして不意に、零が緊張した声音で尋ねた。
「キス、してもいいか」
僕の心臓は面白いくらいに跳ねた。嫌なわけじゃない、むしろ、嬉しい。僕は背伸びをして、自分から零に唇を近づけていた。触れ合ったそこから、幸せが広がっていくようだ。
触れ合うだけの軽いキス。顔が離れると、零はたまらなくなったように
「恋人のフリじゃないこと、もっと、したい」
と言った。僕は嬉しくなって頷いた。
「僕もしたい。キスも、デートも、ハグも」
「勇樹のお弁当食べるのも」
必死になって言う零が面白くて、僕は思わず噴き出した。零は恥ずかしそうに首を竦め「だって美味しそうだから」と呟いた。
語るのは、これからのこと。恋人のフリじゃない、本当に僕らがしたいこと。きっと、今は想像できないこともたくさん。僕たちの初めては、今日から始まるのだから。
強く強く抱きしめ笑い合う僕たちの上には真っ青な夏の空が寝そべっていて、いつまでも僕らの初恋を祝福していた。
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