アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
1.嘘
-
嘘を吐いた。
酷い嘘だ。
人を陥れるような、酷い嘘。
お気に入りの鳥を籠に押し込めたくて、あの手この手を使ったのに。
結局、鳥は籠には入らない。
自由に飛び立つ。
それをもどかしく見ていた。
そして、思い通りにならないのは、自分のせいではない、鳥が悪いのだと思うようになっていた。
「郡司の奴、先輩のこと好きだって言っていましたよ」
大柄で逞しい体躯の持ち主である大河内先輩の、目の色が変わるのをおれは見逃さなかった。
「小平、それ……」
「冗談言っても仕方がないじゃないですか」
「しかし」
大河内先輩の背中を指でなぞりながら、誘うようにたたみかけてやる。
「きっと先輩からのアプローチ、待っているんじゃないかな〜……」
「お前」
「あいつ、今一人で練習していますよ。第二理科室で。誰にも言いませんって。郡司も喜ぶと思うし」
「行ってあげたほうがいいですよ」と囁くと、大河内先輩は眺めていた楽譜をその場において、いそいそと廊下に出て行った。
ちょろいもんだ。
悪い先輩じゃないけど、単純すぎだし、欲求の塊みたいな男だということを知っている。
いつも誰かとやりたいとか、犯したいとか公言している下半身馬鹿な人だ。
「あ〜あ……」
おれが悪い訳じゃないし。
だって。
あいつが悪いんだ。
元はと言えば。
二年生になって一緒のクラスになった。
元々、管弦楽部ではたまに話をする程度だったけど、同じクラスになってから、部活への行き帰りとか一緒に過ごすようになって、2ヶ月も経った頃にはあいつのことを好きになっている自分に気がついた。
男子校だし。
そういうのって日常茶飯事だし。
それに郡司だって、おれと一緒にいるときは、いつも楽しそうにしていたから。
おれはてっきり問題ないと思っていたのに。
『ごめんなさい』
あいつが、そう言った瞬間。
驚いた。
だって。
嘘でしょう?
断る理由なんてないじゃん。
『なんでだよ?』
おれの問いに、あいつは答えられなくて俯いていた。
性悪だよ。
おれのこと誘っておいて、お断りだなんて。
恥をかかされた。
プライドズタズタだよ。
あれ以来、郡司とは口をきいていない。
あいつはヴァイオリン。
おれは、チェロ。
パートも違うから、部活に来てしまえば会話する、なんてことはそうそうないんだけど。
クラスで顔を合わせるから、気まずいままだ。
おれにはあんなことしておいて、別の奴と会話している郡司を見るのが一番嫌だった。
だからイライラして、思いついた。
「名案じゃん」
音楽室の時計を眺める。
大河内先輩がいなくなってから1時間経過。
「そろそろかな?」
口元を歪めてから、席を立つ。
「おい、小平」
チェロの同級生、柴田に声をかけられる。
「どこいくんだよ」
「トイレだよ」
「のんきでいいね〜。お前は」
「うるせえ」
楽器をその場に残して、おれは目的の場所へ向かった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
1 / 4