アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
-
晦日
-
都心からはかなり離れた内海に寄り添った港町。
懐かしい故郷に久しぶりに帰ってくるのに、ぼくはいつまでたっても不機嫌だった。
「そんなにしょげなくてもいいだろ?歩」
「だぁって……あんなのってないよ…」
あんなにいいところまでいってたのに、電話なんかかかってくるからいけないんだ。
「いつでもできるんだから我慢しな。実家に帰れるのは滅多にないんだし」
「二葉兄ちゃんだってすっごい残念がったじゃん、なんで平気なの?」
電話がかかってきたときはすっごい引きつった顔で応対してたのに。
やっぱり二葉(ふたば)兄ちゃんの方が大人なんだって、思い知らされてる気がする。
そう思ったらなんだか恥ずかしくなってきて、ぼくはずっと助手席でむくれていた。
◇ ◆ ◇
「あら~おかえりなさい、疲れたでしょう?」
「ただいま、母さん」
「お母さん!」
車をガレージに停めて車から降りると、玄関でお母さんが出迎えてくれた。
思わず飛びついてただいまを言うと、やっぱり寂しかったの?と言ってからかわれる。
「歩、お兄ちゃんのこと困らせたりしてない?」
「大丈夫だよ、ちゃんと学校だって行ってるし、手伝いもするよ」
「本当かしらね?二葉も変わりはない?」
「歩の寂しがりがひどくなった以外は、なんにも」
「兄ちゃん、余計なこと言わないでよ!」
寂しくなんかない、兄ちゃんのそばにいたくてわざわざ実家を出たんだから。
ふざけ合ったりしながら玄関の戸をくぐると、不機嫌の原因がぼくらを出迎えた。
「よぉ、楽しそうだな二葉、歩。おかえり」
一葉(かずは)兄ちゃん。一番の楽しみを台無しにしたのは兄ちゃんです。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
2 / 105