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思い出
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◇ ◆ ◇
朝食の片付けを終えて机を拭いていたら、庭にある金柑の木がふと気になった。
亡くなった父さんが、自分たちがそれぞれ生まれた日に、何かしらの願いをこめて植えた苗木。
兄の時は『風雨に翻弄されても決して折れない子になるように』と言って柳の木を。
自分の時は『沢山の人の助けや楽しみになれるように』と言って枇杷の木を。
歩と駆が生まれた時には『小さくとも実り多い人生を送ってほしい』と願って、あの金柑の木を植えたらしい。
本人は生きてる間に一度もそんなことを語ったことはなかったが、葬式の後みんなが塞ぎ込んでいた時に、母さんがその話をしてくれた。
昔、まだ幼かった歩と駆があの木のそばで毎日実が生る日を楽しみにしていた光景を思い出す。
毎年鈴生りに生った実を、家族で庭に出て摘んでいたあの時。
あれが、ひょっとしたら自分の夢の原点かもしれないと思ったら、またあの思い出に触れたくなった。
「まだ実は旬じゃないか…」
金柑の収穫時期は1月の終わり頃からが大体の目安になっている。
窓の端から庭を除くと、小さな実が沢山ついているのが見えた。
『はい、あーんってしてー』
『あー』
双子がお互いに食べ合いっこしていたのを思い出しながら窓を開けたら、兄貴に腕を掴まれてうろたえる歩に遭遇した。
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