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金柑
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◇ ◆ ◇
暇。
歩にちょっかい出そうと思ったらごみ出しでいないし、カズ兄と二葉兄はどっか行ったし。母さんをこれ以上困らせるのも出来ればご遠慮したい。
「……あ」
炬燵でだらだら突っ伏していたら、庭のきんかんが目に入った。
歩と俺が生まれた時に、父さんが植えたって言ってたような覚えがある。
吸い寄せられるように窓を開けて、木のそばに来てひとつ摘んで食べた。
「うわ、酸っぱい」
熟してそうな黄色いのを選んだつもりなのに、ちっとも甘くなかった。
沁みるような酸味に、ふと昔のことを思い出した。
物心ついた時から、いつも二人で庭に出て、小さな枝を眺めながら遊んでた。やっと実が生って、熟した時はうれしくてうれしくて、二人して片っ端からきんかんを食べつくして、お腹を壊して叱られたこともあった。
母さんと二葉兄が摘んだきんかんでジャムを作るのを、ずっと台所をうろちょろ付いて回って待ち焦がれていたのも懐かしい。
なんで今更、こんなに感傷的なんだ。
別に歩にこっぴどく振られたとかでもないのに。
「……ないんだよなぁ、望みが」
口からそんな言葉が零れ出た。
歩の隣には、すでにもう空きがない。記憶に居座ることはできても、それはきっと兄弟として過ごしたただそれだけの、思い出の端っこに過ぎない。
次の実を摘んで食べたら、今度はやたらと苦く感じた。
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